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【Uターン漁師のゴーヘー通信】Vol.11 通勤時間
                                    2002年3月23日発行
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■通勤時間

「通勤時間」。なんとも懐かしい響きです。
毎朝の満員電車で身動きがとれないほどギュウギュウ詰めになったり、途中停車駅でその電車に乗り込もうと入り口で必死にドアにつかまる人がいたり、座っていた人が電車を降りようと人混みをかき分けて出て行ったり、目の前の座席の人が偶然降りて行きラッキーなことに座れたりと、まぁ、通勤といえば満員電車の思い出ばかりです(笑)。

ゴーヘーのサラリーマン時代の通勤時間は概ね1時間半以内でした。都内に通うサラリーマンとしては多くもなく少なくもないという時間でしょうか。途中乗り換えがあるとその駅での待ち時間で通勤時間が長くなることもありました。

電車通勤のサラリーマンに限らず、自宅が仕事場の人以外、多くの人は何らかの手段により仕事場まで通っていることでしょう。車、自転車など自分で運転しなくてはいけないものの場合、通勤時間は自ずと短めになりますよね。

漁師の場合、自分の船が仕事場なので通勤時間はほんの数分、人によっては自宅前がすぐ岸壁で船まで0分なんてのもあります。が、実際はそこで仕事ができるわけではなく更に漁場まで行かなくては行けないので、車で会社や仕事場まで通う人の似ています。漁師も毎日船で漁場まで通勤しています。

ゴーヘー達の場合、近い漁場の場合は30分、一番遠くて1時間半程度かかります。すでに船という仕事場にいるにも関わらずまだ準備不足で仕事にならない、そんな気がします。実に歯がゆいです。

当然帰りも同じだけの時間がかかります。その上帰ってくるだけで終わりではありません。捕ってきた魚を売らなくてはいけません。札場(市場)が開かれない時は仲買に直接売りに行きます。売って港に戻り網の破れがなければ、それで勤務終了(笑)。破れや汚れがあれば船の上で、きよったり(繕ったり)そろえたり(汚れをとりすぐに使える状態にする)します。札場がある時は午後4時から売買開始なので、それまで網をきよったりそろえたりして待ちます。

こうしてみると帰りも仕事をするために帰ってくるような感じです。ちょうど仕事を家に持って帰る感じに近いかなぁ。なるべく持って帰りたくないですが、出先(漁場)でなにが起こるかわからないのも、漁師の仕事なのです。




■今週のゴーへー

○3月9日(土) 快晴
放射冷却で今朝もとても寒く手足が痺れてしまった。朝豊浜前あたりでまたスナメリ(1匹)を見た。海は穏やかでとても気持ちいい。この冷え込みさえなければと思う。
上野間のいつもの場所に行って網をやっていると無線でAW丸の声がした。SK丸としゃべっている。程なくそのSK丸が上野間に着いた。すでに我々がいたので驚いた様子でAW丸に「KE丸(うちのこと)がええとこ(いい場所)やっとる」と報告していた。で、そのええとこにはカレイが8枚いた。その後はカラか1・2枚でこれまたいつもどおり。風も波もない絶好の漁日和なのに残念。午後1時半までやって売り物になったのは16枚しかなかった。朝の一クラがなかったら悲惨な1日になっていた。
戻りは久しぶりにゴーヘーが舵を取った。ゴーヘー父は網をキヨウ(繕う)ため船のオモテに行った。南を向いて走るので野間の灯台までまぶしくて目を開けていられなかった(おいおい)。それを過ぎたら立ったままなので今度は腰が痛くなってきた(やれやれ)。豊浜あたりからはお腹の具合がよろしくなくなってきた(大丈夫?)。
仲買にカレイを持っていったきり、ゴーヘー父がなかなか戻ってこない。お腹はどんどん苦しくなる。ようやく戻ってきたら「これからタテコミやりに行くか?」とのたまう。当然賛成せず。船をつけたら速攻で家に帰りトイレに直行。危機一髪!!


○3月10日(日) 快晴
朝の冷え込みは昨日ほどではないと感じたので、フリースのソックスを履かずに出かけた。失敗だった。上野間につく前に冷えて足が痺れてしまった。ちょっと春めいて来たからといって油断してはいけない。
内海前でまたスナメリを見た。離れて1頭ずつ計2頭。去年こんなによく見かけたっけ?
昨日に続き今日も我々1パイ(隻)だけの操業。他の船は三河に行ったようだ。一クラ目は上野間のいつもの場所。またカレイが8枚いた。その下り(南側)を2クラやるとそれぞれ6枚ずついた。おお、朝から大漁だ!今日は絶好調!!。4枚一度にかかっている箇所もあり、かなり慌ててカレイを外していた。大ガレイを外してカンコ(魚を生かす船倉)に放り込んだらちょっと距離が足りなくて、カレイの頭がカンコの縁に当たった。「パコン!」とよい音がしてカレイがカンコの中に落ちた。水の中に入ったそのカレイは白い腹を仰向けにしてゆらゆらしてた。脳震とうだ(・_・;)。
そのカレイは5分くらいゆらゆらした後復活したけど(笑)、背中の色が他のカレイよりちょっと黒かった。まだ具合悪いんだね、、、。
海はベタ凪で海面もなめらかそのもの。日が昇るにしたがって快適からむしろ暑くなってきた。セーターを一枚脱ぐ。9時半頃西の風がすこし出てきたけど10時半頃には止んだ。お昼頃また西の風がそよぎいつしかマゼ(南風)に変わりそよいでいた。12時半、暑い!数日前がウソのような陽気になった。
仲買に持っていったカレイは全部で32枚。セイロ(魚を入れるトロ箱)に入れて持ったときには重く感じたんだけど、12kgしかなかった。1枚あたり400gに足りない。大きいカレイはきっと500g程度はあると思うんだけど、200gに足りないくらいのカレイが10枚以上あったせいだろな。小さくて売れないのを4枚うちに持って帰ってきて秤に乗せたら560gしかなかった。1枚140gか、、、


○3月12日(火) 晴れ
今日は朝から暖かい。さすがにフリースソックスは不要だった。いつものように西浦を目指して走る。6時頃上野間のいつのも場所に到着。すぐに1クラ目をやる。網を上げ始める頃SK丸が到着した。うちらの下り(南側)に網をやった。
この1クラ目はカレイが4枚だった。1日空いているのでもう少しいてもいいはずなのにどうしたんだろう?それ以後も0〜2枚の連続で11時までに10クラやった。風が吹いてきそうな雲行きと海の具合だったので漁を止めて帰ってきた。
明神様(知多半島の先端の灯台)までやってきたら往来の船の引き波のせいもあるが、波が急に高くなった。そこであわててガランガランを船首で引き上げていると、船が流されて航路標識にぶつかりそうになった。急いでゴスタン!


○3月13日(水) 晴れ
午前4時半頃起床。風がそよそよしている。港に行くと海面が随分シマケていた。コウナゴ漁の人たちが残していった焚き火の残り火にしばしあたる。迷った揚げ句でかけることになった。舫(もやい)綱、碇(いかり)綱を外して出ようとしたらコウナゴ漁の船が入港してきた。どうやら連合会がかかった(コウナゴ連合会の協議で休漁になった)ようだ。カレ網の船よりトン数で3倍から5倍くらい大きなコウナゴ漁の船が、戻らざるを得ないのだから随分波が荒いんじゃないのか?事実港の防波堤を過ぎたら北西の風が強くなり、浦前の海苔枠を過ぎたら左舷から横波を受けてドンブラコ状態。西浦に行くのは諦めて梶島を目指してそのままスローで進んだ。
ゴーヘーはブリッジのすぐ後ろの道具箱の上に後ろ向きに座っているのだが、暗闇にわずかに見える船の引き波が広がることなく風下側に流されている。船は右舷側(風下側)に繰り返し大きく揺すられる。こんな状態でも梶島に行けば波だけはかなり収まるから漁はできる。船は速度を少し上げて進んでいった。
そんなとき、右舷側への傾きがいつも以上に傾いていく!!うわっと声を出すまもなくゴーヘーは右舷側へ振り出された。船のあちこちで甲板上の物が一斉に右舷側に移動してどこかに当たり、コン・コン・ドン・ドンと音がした。道具箱とブリッジに必死に使って難を逃れたゴーヘー。暗い海に落ちたらタスカラナイ。何かにつかまっていないと座ってもいられない(T_T)。30度位は傾いたんじゃないか?その後も大きく傾くことが何度かあった。両足は大きく開いて踏ん張っていないと何かにつかまっているだけじゃ危ない。
こうした風下側への傾きは「どこまで傾くんだぁ!」という点で不安なんだけど、それ以上に怖いのは揺り戻しで風上側に大きく傾いた時だ。大抵波の谷間に入っているから次の波の頂点が目線より高く感じられ、その波に向けて船が傾いているのだからそのまま波を被って風上側に転覆しそうな気がする。ふと船の転覆って案外そういうケースが多いのかもしれない、とふんばりながら思う。
梶島まで残り三分の二あたりで急に船の速度がスローになった。180度回転したのでどうやら戻るみたいだ。暗かった頃はまったくわからないのだけど、あたりも明るくなって海一面が砕ける波頭で真っ白なのがよくわかる。ゴーヘー父も諦めがついたようだ。が、安心するのはまだ早い。帰り道でははやり波を受けて大きく傾く。傾く方向が逆になるだけだ。案の定何かにつかまり両足を一杯に広げて踏ん張るゴーヘーの姿勢は変わらず。傾き度合いも変わらず。明るくなってよく見える分余計怖い。(T_T)
で、ゴーヘーは思った。これは後ろ向きだから怖いんじゃないかと。前を向いていれば押し寄せてくる波が見えるわけだから傾くこともある程度予想でき、傾きに体が反応できて怖さも解消されるんじゃないかと。前を見るためにはどうしたらいいかを揺れながら考えた。船のおもてに行けば前をよく見ることができるが、びしょぬれだ。第一つかまる場所がない。この位置で前を見るためにはブリッジが前を塞いでいるから、立ち上がらなくてはいけない。こんな大ドンブラコ状態のときに立ってられるか!却下!やっぱり後ろ向きしかない(;_;)。
半分ほど戻ったら船が止まった。もしや梶島へ行くのか?ゴーヘー父はブリッジから出て船のオモテに行った。ゴーヘーも行くと網を入れたカゴがブリキのバケツを押しつぶして、右舷側の船縁に張り付いていた。推定重量50kg以上のカゴ。破壊力も重量級。ボンデンやおもり、リモコン台などが同じく船縁に張り付いていた。カゴを中央よりに移動しながら思った、バケツはもう使えないなぁ、と。ようようトモに戻って腰を下ろしてあっと気づいた。これがプラスチックのバケツだったら割れてまったく使い物にならないが、金属のバケツなら潰れるだけだから、押し広げればまだ使える(笑)。なるほど、それで錆びるのも構わずわざわざ金属のバケツを買ってくるんだ。
と、船はまた180度回転した。やっぱり梶島に行くんだ(;_;)。大井の港からコウナゴ漁の船が出てくるのが見えた。きっと風が凪いでくるとの情報が入ったんだな。うん、それじゃ行くしかない(苦笑)。こんな荒波の中で右往左往してるのは俺達だけだろうなぁ(苦笑)。
梶島に着くとすぐに西の水かぶり(潮が干ると海面に顔を出す岩)の傍に網を入れた。あたり一面にカモメが浮かんでエサをついばんでいる。5分後網を上げ始める。なんだか猛烈に風が強い。さっきより強くなってきたようだ。すぐに船が流される。網にかかるのは海藻かクラゲか、コノカサ(ヒトデ)かガゼ(ウニ)だけだ。頭の上で壊れたハーモニカのような音がする。見上げるとカモメが何羽も浮かんでいた。小さいのやおおきいのやいろいろ、手を伸ばせば届きそうなくらいに近づくカモメもいた。どうやら小魚などのおこぼれを期待して来たようだ。残念ながらカレ網にはカモメのエサになるような魚はかからないんだよと思ったけど、カモメに通じるわけがない。コノカサの切れ端を放るとさっと寄ってきてついばむものもいた。それは食べれないだろ、と思ったけどやっぱり通じないよね。それにしても大きいカモメ(種類は不明)は目つきが悪いなぁ(笑)。小さいカモメの方が色もきれいでかわいいぞ。結局小カレイ1枚しかいなかった。
網を上げ終わる頃には猛烈な風となっていた。この付近で50cm以上の波が起こるのだから余程の風だ。ガランガランを船上に引き上げて帰途についた。一色前から海苔枠の沖に出たら猛烈な横波。まっすぐ大井を目指して走れない。横波を受けないようにジグザグにスローで船を進める。ジェットコースターで最大傾斜角89度とか90度かというと非常にスリリングだけど、海の上の船の横30度にはかなわないな。なにしろ安全ベルトがないからね(笑)。余談だが、後ろ向きのジェットコースターは怖いのかな?
港に戻ると出てたはずのコウナゴ漁の船は皆帰港していた。なんか騙されたみたいだ(笑)。お昼頃、あれだけ猛烈に吹いていた風はぴたりと収まった。コンビニの旗も揺らいでいる程度だ。

■Vo.11-2に続く
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Copyright (C) 2001-2002 Gohe.

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