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【Uターン漁師のゴーヘー通信】Vol.110 漁業は漁師、農業は農家
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■漁業は漁師、農業は農家

漁業、農業は共に第一次産業に属し人間の活動の最も根元的な産業であります。この件に関しては別途機会を設けるとして今回はそれぞれに関して漢字から考察してみたいと思います。なお漢字の解説に関しては旺文社漢和辞典(新訂版)を参照しました。

まず漁業、農業に共通する「業」は、象形文字で読みは音読みが「ギョウ」と「ゴウ」、訓読みが「わざ」です。楽器の鐘をかけるためにたてた木の台をかたどったものでのちにその飾り板をさすようになり、転じて文字を書いた板、更にそれについて学ぶことを学業というようになり、ひいては仕事の意となったそうです。仕事を表すと同時に因縁の「ゴウ」をも意味する点が、他者(もちろん魚)の殺生においてしか身を養えない漁師の身として興味深いです。

次いで「漁」は、形声文字で読みは音読みは「ギョ」と「リョウ」、訓読みは「すなど・る」と「あさ・る」(・以降は送りがな)です。さんずい(水)と象形文字である魚を合わせたその意味は「水中または海中より魚をとる」の意で実にわかりやすい漢字です。同時に太古の昔から変わっていない生業(なりわい)の重みも感じます。

読みの中の「あさる」は「探し求める」、「むさぼり求める」の意味もあるようです。漁師が魚を求めてあちこち走り回る様子とその気持ちを表しているようであり、数千年の昔も今も漁師の行動は変わっていないんだと思わずにはいられません。面白いのは「むさぼり求める」の意味つながりで「漁色」という言葉があることです。「漁色」とは「女色をあさること」だそうで男が女をあさる様を漁師が魚をあさる様に重ねたのでしょうね。現実の漁師の回りはとんと女気がないんだけどなぁ。

一方「農」は同じく形声文字で読みは音読みの「ノウ」のみです。草刈り道具を示す辰と草を切る意味の田からなり「くさぎる」からのちに農業の意となったそうです。草ぼうぼうの荒れた土地を農地にする際最初に行うのは草刈りなので、これを読んで「確かに!」と膝を打ちました。

また「漁」には訓読みがあるのに「農」には訓読みがないのが不思議です。試しに「訓読(くんどく)」を調べてみると「漢字をその字の意味に基づいて訳した日本語で読むこと」(Infoseekマルチ辞書より)となっているので、漁業は元から日本にあった生業だけど農業は大陸から輸入された産業だったのでしょうね。今だったらカタカナで表記されてたかもしれないですね。

「農」を使った言葉の多くは純粋に農業に関するものばかりで、「漁色」のような用いられ方をしているものは見あたりません。農業はまじめにじっくりと取り組まないとうまくいかない生業であるのに対し、漁業は「あさる」という読みに象徴されるようにかなり「動」きを必要とする生業だからなのでしょう。つまり魚を掴まえるためには「考えるより行動しろ」、「口を動かすより体を動かせ」ということなのでしょうね。・・・原稿を書いている今、なんだか片身が狭いように感じるのは気のせいでしょうか。


さて残るは「師」と「家」です。もうちょっとですのでついてきてくださいね。

「師」は形声文字で小高い丘を表す阜と作りの「し」からなり軍隊が丘の上に駐屯した様子からいくさの意味と、導く意の「帥」に借りて用いられて導く人、先生の意となったそうです。「いくさ」と「先生」というなんとも不釣り合いな意味が同居する漢字ですが、「師事、恩師、師弟、師走」など今は「先生」の意で使われている場合の方が多そうです。

こうしてみると「漁師」という言葉の意味は「漁の先生」ということになりますが、「考えるよりも行動しろ」という漁師には何とも似合わない言葉とは思いませんか?

最後となった「家」は家を意味するウ冠と同時にいる意を示す下の部分からなり、「人のいるいえ」の意味だそうです(まんまじゃん)。読みは音読みが「カ」、「ケ」、訓読みが「いえ」、「や」。意味は「いえ、世帯、家族、店、学問や技芸の流派」などで、一人ではなく複数の人間の集まりに視点が置かれています。そこが「師」とは大きく異なる点です。

つまり「農家」は農業を営む人の集まりを指しているのに対し、「漁師」は漁を行う一人の人を指しているわけです。もちろん「漁家」という言葉はありますが漁を生業とする人に「漁家ですか」とは聞きません。「漁師ですか」と問います。逆に農を生業とする人に「農師ですか」とは聞きません。「農家ですか」と問うはずです。

農業は村人総出の共同作業が多いという点が「家」単位の考え方に繋がったのかもしれませんが、漁業でも昔は一人で行うことは少なくなかったはずです。また「師」の意味から考えたら漁師より「農師」の方がよりしっくりとくるものなのに「漁師」が残り、「農家」となったことは実に興味深いことです。

ひょっとして「師」の「いくさ」の意味がより強調されて残ったのでしょうか。つまり漁において「船上は戦場」、「漁は魚との戦い」と考えれば「漁師」は「漁で戦う人」としてぴったりと収まるように思えます。

さて、ほんとのところはどうなんでしょうね〜(^_^)。




■先週のゴーヘー

○なし


■今週のゴーヘー

○休業中


■エピローグ

今回は言葉遊びっぽい視点で書いてみました。漢字は一文字一文字に意味があるのでそれぞれの元々の意味を考えてみるとなかなか面白い発見もありそうです。

12月は20年ぶりに寒い月となったようです。強い冬型の気圧配置が続き日本海側では12月としては記録的な大雪だったとのこと。年明け後も雪は降り続き新潟県津南町ではついに3m80cmを超えたとのこと。あちこちで家屋が雪の重みで潰れ亡くなった方もいらっしゃるようです。

このメルマガを読んでいる方の中にも大雪の地方の方がいらっしゃるかもしれません。屋根の雪下ろしが間に合わず家から変な音が聞こえてきたら迷わず家を出て他家へ避難なさってください。すぐに避難ができない場合はとにかく家の端の壁際へ移動しましょう。また風雪も激しく台風並みとなる場合もあるようです。雪・風共にくれぐれもご注意ください。

最後に、亡くなった方々のご冥福をお祈り致します。


■次回予告

Vol.111 「愛知の漁業」 2006年1月21日(土)発行予定

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