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【Uターン漁師のゴーヘー通信】Vol.41 昔話:舵が折れた
                                    2003年5月17日発行
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■昔話:舵が折れた

4月5月は天気が周期的に変わり、特に4月は穏やかな春の陽気から天気が崩れ春の嵐となり、その後寒い北風が吹きそれが収まる頃また春の陽気が来る、を繰り返しますね。北風の吹く日数が次第に短く気温もあまり下がらなくなってようやく初夏を迎えます。

秋も同様に天気が周期的に変わるわけですが、天候の急変は秋より春の方が多いように見受けられます。日本上空を西から東へ流れるジェット気流との関連があるのかもしれませんが、理由はよくわかりません。今は天気予報の精度も向上しているので前日のテレビの天気予報で天気図をよく見ておけば、翌日海上で天候の急変に慌てるようなことはありません。

天候が急変するのは大抵寒冷前線が通過する前後のことです。予報ではその通過時刻まで説明されることがあるので、安心度は更にアップします。

通常低気圧が近づいていると東風が強くなってきます。しかし気圧配置によっては東風があまり強く吹かずどんよりとした凪になることがあります。三河湾ではそれでも東風が少し感じられますが、知多半島に西側では凪になってしまうこともあります。こういう時が一番危険です。

天気予報がアテにならなかった昔、天候を読むのは漁師にとって命に関わる大切なスキルでした。経験上上記のような天候の凪の後には必ず北西の風が「ブチ落ちてくる(猛烈に吹いてくる)」ことがわかっているのですが、少しでも漁ができるようなら出漁する漁師もいるので、遅れをとるわけにはいきません。こうして皆不安を抱えながらも漁に出て行ったのです。

その日も若かったゴーヘー父は兄(おじさん)・父(おじいさん)と西浦にバカ網(ボラ漁)に出ていきました。案の定途中で天候は急変、北西の風が猛烈に吹き下ろしてきました。急いで網を揚げ帰途についたのですが、右後方から船がひっくり帰りそうな程の横波を喰らいうまく走れません。船のエンジンも今と違って出力が低く波間に漂う様相。それでも必死におじいさんが舵を取っていましたが、肝心のその舵が波に負けて折れてしまいました!

昔の船の舵は今の鉄製の舵と違ってすべて木で出来ていました。このため無理な力がかかったり古くなったりすると折れることがありました。そしてよりによって悪天候のこの時にその舵が折れたのです。船はもはや波間に漂う笹舟になってしまいました。波と風にただ流されるばかりです。

万事休す、のところへ運良く大井のバカ網の船が一艘後ろから走ってきたそうです。こちらの様子がおかしいので船を寄せてくれ、事情を話して船を牽引してもらうことになりました。しかし、自分の船を走らせるだけでも大変な状況です。よく牽引してくれたものだと思いますが、それが漁師というものなのでしょう。どちらの船のオモテ(前)もトモ(後ろ)も横波に洗われる中、2ハイの船はなんとか進んで行ったそうです。

ゴーヘー父は波に流されないよう船につかまって必死に前を見てたそうです。その時、前の船が大きな横波をかぶり海中に消えてしまいました!。「あっ!」と発した声が言葉にならなかったそうです。「うちの船の舵が折れたばっかりに!・・・」と瞬間的に考えたそうです。

海中に消えてどのくらい経ったでしょう。長く感じたそうですが、おそらく1秒前後のわずかな間だったはずです。前の船はまた海上に現れました。ブリッジの戸を閉めていて機械室に浸水しなかったことが幸いしたようです。誰も流されることもなく全員無事だったそうです。

その後も危機的状況は続いたわけですが、船が沈むようなこともなくまた流されることもなく、どうにか大井まで帰ることができたそうです。

今では天候が急変しても船が昔より一回り大きくエンジン性能も良いため、ひどくなる前に帰ってくることができます。良い時代になったものです。




■今週のゴーヘー

○5月2日(金)  <大波>

朝東風が吹いていたけど浦前(大井前)の波はそれ程なかったのでオクゴオリ目指して、TA丸、OA丸の後を続いて走っていた。日間賀島の西側を通って篠島との間へさしかかったら、東から大きな波がやってきていて皆慌てて舵を切り西に向けて波から逃げるように走り出した。1m近い波が後ろからやってきてまるで船ごとサーフィンしてるような感じ。

明神様(半島先端部)を回って豊浜前まで来たら波はなくなりウソのように穏やかになった。そのまま大谷前まで走りお昼までその近辺で漁をやった。3回カラが有った他はカレイやコチがポツポツとかかり、そこそこの漁となる。お昼直前の漁でアオサが大量に網についてしまい今日はそれでお終いとなった。

帰りは久しぶりに船の舵を取って(運転して)きた。明神様から片名(かたな)漁港に入るまでは相変わらず縦横に船が走っていてその引き波で海面が荒いため、今回も緊張して舵を取った。なかなか慣れない。


○5月6日(火)  <札場始まる>

昨日もTE丸が大きめのカレイをたくさんつかまえてきていた。彼はゴーヘー達の船から少し離れた場所をやっていただけなのだが、随分差が出た。かなり悔しい。

で、今日もまた同じ場所へ行って網を入れた。全体に昨日よりはカレイが少し大きい。大きくてよく肥えたモガレイ(マコガレイ)も1枚かかった。9時前後はちょっとカラが続いたけど、その後お昼までまたカレイ2〜4枚、コチが1・2本ずつかかり、結局全部でカレイ37枚、コチ9本の大漁だった。

今日から札場(市場)が始まりカレイもコチも丁寧にサイズを分けてセイロ(トロ箱)に入れておいた。我々の魚の値段は、小さいコチが1本500円弱、大きいコチが1本千円強だった。カレイは1枚300〜400円程度。

1枚だけあった大きなモガレイを見た仲買が、「1枚だけで売ると言い」とゴーヘー父にアドバイスをくれたのでそうしてみたところ、3,600円ほどでその仲買が落とした。直前にYS丸がこれより大きなヒラメを売っていたけど値段は3,500円だったので、SK丸が「ヒラメより高いなぁ」と感想を漏らしていた。う〜ん、札場万歳。


○5月7日(水)  <仲買3人>

今朝も5時から一色沖で漁を始めた。最初はカラだったけどその後は順調にカレイやコチがかかった。今日は特にコチが多くて全部で14本かかり、そのうち大ゴチが3本あった。ずしりと重く体の擦れもなく実に良いコチだった。8時頃から東風が吹き始め船がゴロンゴロンと揺れる中、網にかかるヒトデと赤いガニをとり続けてやったかいがあるというもの。その風はお昼頃から強くなり始めたけど漁は14時まで続けた。もちろん港に戻ったのは一番最後。

今日の札場は仲買人がたったの3人だけ。当然魚の値が安くなり、特にショックだったのは大ゴチ3本7,500円という値段。3本で少なくとも4kg、多分4.5kg以上あったはずなので、9千円はすると思ってただけに肩の力ががっくりと抜けた。これじゃ、相対で売った方が良いほどだ。参ったなぁ。


○5月8日(木)  <前線通過>

昨夜の天気予報では朝から雨で9時頃寒冷前線が通過して風が吹いてくるとのことだったんでのんびり寝てた。しかし朝5時に目覚めてみたら雨が降っていないじゃない。慌てて出かけた(笑)。

船に飛び乗り静かな海面に船を出した。が、他のカレ網は誰も出てこない。9時までしかできないんじゃ大した量の魚がつかまるわけじゃないからね。ゴーヘー父は昔の人間なんでちょっとでも網がやれるんなら、とにかく出たい(^_^;)。

風がない穏やかな一色沖で網を入れた。赤いガニやヒトデが網にかかるおかげで網揚げに時間がかかるのは昨日までと一緒。風はふわっと吹いたりやんだり向きが変わったりで穏やかなまま。そのうち西浦にいるHA丸がサヨリ引きをしている船に無線で呼びかけた。風が吹いてきたんで戻り始めたとのこと。それからわずか5分後三河でも北西の風が強くなってきた。まさに「吹き下ろしてきた」感あり。揚げ終わるとすぐに帰ってきた。丁度9時半だった。南からの下波(うねり)に北西の風が当たるんで波はすぐに高くなった。こういう日(寒冷前線が通過する日)は危険な日だと改めて思う。

片名(かたな)の仲買に魚を持っていくと親方(社長)が「昨日の大井は(魚が)安かったぁらぁ」と聞くので、大ゴチ3本の愚痴をこぼした(笑)。勘定を受け取る時親方が「GWが終わったで(魚の)値を下げるでな」と言葉を継いだ。「休み明けはなぁ、(値段が安いのは)しかたないでなぁ」と答えて帰ってきた。

船をつけるとじきに雨が激しく降り始めた。


○5月10日(土)  <ドンブラコ>

高気圧と高気圧の間に低気圧でもできたのか、朝から曇って北っぽ(北よりの風)が弱く吹いていた。昨日からの冷え込みも今朝は一層冷えて感じられ、冬用のヤッケを着込んで家を出た。海に出るとオカ(陸)より一層冷えていて、空を覆う一面の雲が日の出後も日光を遮りしばらく寒かった。

一色沖での一クリ目でカレイ8枚、コチ2本がかかった。先日と同じような大きなモガレイが1枚かかっていて値段も期待できそう。2クリ目はカラだったけどそれ以後漁を止める直前までカラはなく、カレイが2・3枚もしくはコチが1・2本ずつかかり、大ゴチはないけど大ガレイが時々かかり順調だった。

7時頃から風が東に変わり次第に強くなり出した。北からシマケ(波立っ)ていた海面もいつの間にか東のシマケに変わり、次第に大きくなってきた。9時ちょっと前にはオンヤ(本家)のおじさんが帰っていき、その他のカレ網船も三々五々帰っていった。風と波で揺れる船上で踏ん張っているのは足が疲れるからね〜。我々も11半頃やめて帰ってきた。

今日は札場が休みなんで仲買へ持っていった。例のモガレイは1枚2,700円だった。札場より1〜2割り程安いが仕方ない。それよりカレイ@1,300円ってどういうこと?。大ガレイも小さいカレイの値段と一緒・・・親方がカレイが売れないとこぼしてたしなぁ、はぁ。


○5月12日(月)  <雨?>

朝は雨が降っているとの天気予報だった。確かに午前3時頃までは降っていたが、夜が明けた5時には止んでいた。部屋の雨戸を開けるとすぐ前の海でAW丸が網を揚げていた(^_^;)。

すぐに支度をして船に行く。弱い北っぽ(北よりの風)が気になったけどとにかく一色前に行く。ざっと7ハイのカレ網船がすでに漁をしていた。完全に出遅れ。とにかくまだ空いてそうな場所で網をやってみる。が、カレイのかかりが悪い。すでに誰かがやった後かと思いきや、他の船も漁がないみたい。北っぽが収まった頃、OA丸とTA丸はオクゴオリへ走っていってしまった。北の風で冷えたせいか、GW前から付近でずっと漁をしているせいか・・・(-_-;)。

9時ちょっと前、ゴーヘー父のガマンが限界にきたらしい。突然梶島へ向けて走り出した。梶島に着くとすぐにカレイやコチが集まる場所を3カ所やってみたけど、小カレイ2、小コチ1、クロダイ1だけだった。全然ダメじゃん(苦笑)。この結果に満足したのか?、今度は元来た方向へ船を戻し、マノの河口で一クリ、そこから西へ少し移動し朝やっていた場所付近へ戻って、午後1時過ぎまでやっていた。

夕方の札場にOA丸、TA丸の二人は来なかった。余程漁がなかったんだろう。一方値の方は比較的よい値がついていた。昨日の漁が今日だったらなぁ(シクシク)。


○5月13日(火)  <魚がいない>

朝東風が吹いていたけど、起床が遅かったんでオクゴオリへ行く。1クリ目で大ガレイ、2クリ目で大ゴチがかかったけど、それ以後4回連続カラ。無線では西浦に行ったカレ網が「なんにもいない」としきりにぼやいている。海水の色が少し白っぽくて、土砂を海中に入れて濁った水の少し濁りが引いた時のような色合いだ(くっ、わかりづらい(-_-;))。ゴーヘー父曰く「水色(水の色)がもう少し赤っぽくなってこんとだめだ」。

それで黒部を諦めて東へ走り、先週の4日にやった場所をもう一度やってみる。今度はガランガランが引っかかることもなく(笑)、コチが2本、ハゴ1枚、キス1つがかかる。その後付近を3クリやって、カレイが大小6枚、コチが5本、ゴイカ(今日はカミナリイカ)が1つかかった。どうにか息を吹き返した感じ(苦笑)。この後、江比間に戻って一クリやるもカラで終わる。

帰りは舵を取って(運転して)きた。ちょっと緊張(笑)。特に船を桟橋や岸壁に着ける時が難しい。うまくゴスタンしないと船が止まらないんだなぁ・・・でも、ゴスタンをかけるタイミングが早すぎると止まる位置が手前過ぎてダメ。もちろん、遅すぎて船が岸壁にぶつかるよりは良いけどね〜(^_^;)。


○5月14日(水)  <低気圧近し>

朝東の風が少し強めで天気は下り坂の予報。三河では波が高く漁ができそうにないんで西浦(常滑方面)へいくしかないが、最近の西浦は魚がいない。迷いつつ朝4時に船だまりへ行くと丁度みんな出て行くところだった。しかたなく我々も船に乗った。

豊浜前までは波がえらかったけど後は南からのうねりだけ。風は東風が2〜3m吹いていた。西浦につくとまず大谷の崖の沖で漁を始めた。と、いきなりアオサで網が汚れてしまった(T_T)。今日は途中で帰ることがわかっているだけに、なんだか網を汚すために出てきたようで気が滅入る。カレイ3枚、小コチ4本、ハゴ(小クロダイ)を3枚つかまえて、東風が強くなってきた8時ちょっと過ぎに帰ってきた。

半島の東側へ来たら朝よりまた少し波が高くなっていた。やれやれ今日は早々と終わったなぁ、と思っていたらゴーヘー父は大井前を通過するじゃない。お?、こんなに波が高くてどこで漁をする?、と思っていると、家のすぐ前のホウベで船を止めた。ここでまず一クリやってハゴを2枚、続いて海田のイワテ(北側)でもう一クリやって小カレイ1枚、小コチ2本をつかまえた。時折船縁を波が洗うほど船が傾く中での漁は疲れるわ〜。

夕方の札場ではTA丸が来なかった。OA丸はコチがセイロ(トロ箱)に4ハイ、約2万円もあった。あの短い時間でよい場所に当たったみたいだ。ゴーヘー達はわずかに4,000円。油銭(燃料代)にしかならない。


○5月16日(金)  <反復横跳び>

低気圧が過ぎ去ったんで今日は風が強くなる予想。明るくなり始めた4時半に起き支度をして船着き場へ行くと皆の船がまだあった。集まって話してるんでその輪へ加わる。風がいつ吹いてくるかについて話してるうちにSK丸が「風は昼からだいな」というのを受けて、ゴーヘー父は「風なんか吹いてこすか(くるもんか)!」と吐き捨てるように言った。「はぃ(早く)、行くぞ」とみんなを促すように言い捨て、軽トラに乗った。朝からなに機嫌悪くしてるの?。相変わらずわからん人だ。

我々が船を出すとみんな渋々船を出してきた。しかし沖に出れば出るほど風が強くなってきて波が高くなってきた。我々が一色に着いた頃は普段なら漁を止めて帰るくらいの風と波だった。ゴーヘー父は無線で「こや(これじゃ)、あかんなぁ」とみんなに言い、他のみんなは無線で「吹いてきたなぁ、あかんとなぁ」と言いながら途中で帰っていった。

これでゴーヘー父も舵をうちへ向けるかと思いきや、網をやると言い出した。普段なら止めて帰るほどの波と風。船は横波を受けてゴロンゴロンと転がるように傾き、足を一歩踏み出しては倒れないようにこらえる。まるで船上で反復横跳びをしてるみたい。二クリ1時間ほどやってもカレイが1枚だけしかかからず、さすがに諦めて帰ってきた。ふくらはぎと太股が張り気味(;_;)。


■エピローグ

GWを過ぎたら毎日風が吹いて波が荒い日が続いています。通常の5月はこれほど風が続くことはないんで、今年はやりづらいです。おまけに魚がいなくなって毎朝どこへ行くか悩みながらの出港です。そろそろアオリイカが獲れる頃なので、5月後半に期待したいです。

今回は古い話なので多少記憶違いや漁師特有の誇張があるかもしれません(苦笑)。しかし嵐の中一旦沈んだ船が浮いてきて助かった話は、以前本屋で立ち読みした日本一のカツオ漁船の話の中にもあったので、ありえることなんだと思い書いてみました(^-^)。


■次回予告

Vol.42 「エイに刺された」 2003年5月31日(土)発行予定


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