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【Uターン漁師のゴーヘー通信】Vol.48 船を引く
                                    2003年8月23日発行
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■船を引く

「車を引く」と言えば故障した車を牽引することですが、最近は滅多に見ることないですね。船の場合も海上で故障して動けなくなれば他の船に引いてもらうことになりますが、その場合こちらの漁師達は、引く方は「引いてやる・引いてやった」、引いてもらう方は「引いてもらった」と言います。そのまんまですね(笑)。

「船を引く」というのは「船を陸に揚げること」を言います。いわゆる「ドックに揚げる」というヤツですね。「ドック」と聞けばなにやら施設が整った「船の修理工場」みたいなイメージで捉えている方が多いかもしれませんが、こちらにある実際の「船引場」は船台(船を乗せる台)と牽引装置があるだけの簡素な場所です。隣村にある漁船の造船所が運営している「船引場」はいろいろな工具や施設があって便利ですが、やはり大変な繁盛ぶりです。どこの「船引場」も海岸にあるので昨今の台風・豪雨で今は流れモノ(ゴミ)がたくさん打ち上げれられています。うちの村の「船引場」は見た目、使われなくなった漁港施設な感じです(苦笑)。

「船を引く」のは年に3〜4回ほどです。春先・梅雨前・夏場に加えて晩秋に引くこともあります。引いて何をするのか?

船は常に海に浮かんでいます。このため自然に藻やゼンボ(フジツボ)が船底やペラ、舵に付着してきます。放っておくとこれらが順調に成長して(笑)、走行時抵抗となって船足(速度)が落ちてしまいます。カンコのヒにゼンボが付着するとカンコの水の出入りが悪くなりますし、冷却水取り入れ口にゼンボが付着すると冷却水の流量が足りずエンジンがオーバーヒートしてしまいます(最近のうちの船がこれでした)。

これらの藻やゼンボの船底への付着を防ぐために通常「船舶船底用塗料」を喫水線以下の部分(海水に浸かる部分)に塗っておきます。こちらではこの塗料を「カーペン」と呼んでいます。色は赤茶色もしくは青色ですが、こちらでは赤茶色が主流派です。漁船やタンカーの喫水線から下の色が赤茶色になっているのをご覧になった方もいることでしょう。

船を引いたらまずゼンボをそぎ落とし圧力放水銃(車洗車場にあるヤツ)で藻などの汚れを洗い流し、船底が乾いたところでカーペンを塗りこれが乾いたら船を海に下ろします。当日の午後船台に船を揚げて洗うところまでやり、翌日早朝からカーペンを塗ります。カーペンを充分に乾かして夕方船を下ろすのが理想ですが、船台のスケジュールに空きが無かったり、急に故障船が来たりすると作業途中で船を下ろすこともあります。特に故障船は優先順位が高いので、船台を譲る船をときどき見かけます。

故障で船を引くケースは特に船底の穴やペラの曲がり、舵の破損など重大なケースがしばしばです。うちも去年は海底のシマに船底やペラをよくぶつけたのでそのたびに「船を引いて」船台のお世話になりました。もちろん有料です。

カーペン塗り以外で「船を引く」のはそれだけ船のトラブルが多い証拠です。稼いだお金を「船を引く」ために使っていては本末転倒。なるべく避けたいです。

船台



舵についたゼンボ





■今週のゴーヘー

○8月10日(日)  <流木と濁り水>

朝いつもの時間に船着き場へ行くとまだみんなの船があった。港の中の海面がシマケて(波立って)いて出るのを躊躇した。じきにみんながやってきて口々に「流れモノが怖いでなぁ」と言ってるのを聞き、改めて台風後であることを思い出した。風が吹いてなければうちは何も考えずに出ていたところだ(苦笑)。

明るくなるまで待って船を出すと、出発時間が遅いにも関わらず皆時間がかかる西浦を目指して走り始めた。うちは例によって梶島へ向かった。

梶島では水被り(みずかぶり)や長瀬を行ったり来たりして網をやった。水温が少し低いんで死にそうなコチは1本だけで済みそれは海に放した。海底の水温は低いから息が吹き返すといいなぁ。

12時までやって昼飯を食べながら帰ってきた。走り始めに長さ5mくらいの流木が2本、海面を漂っていた。こんなにの当たったらペラがひん曲がってしまうに違いない。海水の色は濁った薄い緑色をしてた。船が走っても透明な水がわき上がってこないから海面から3〜4mくらいの層になっているみたい。この濁り水はたぶん雨水が混じった海水だ。浅い所だとこの濁り水が海底に達してしまうから、主な魚はもっと深いところに避難してるかもね。魚があまり獲れなかったのも道理だ。


○8月11日(日)  <ゴミ>

今日も梶島へ行き10時頃まで網をやった。川から流れてきた竹くずや木くずがたくさん集まっていて、網を揚げる時にそれが網についてくる。海中にもたくさんゴミが浮遊しているようで、両方のゴミが網についてしまい網揚げに普段より30%くらい余分に時間がかかった。魚の方はカラが無くまずまずの調子だった。

10時頃梶島を後にして田原町へ行った。クロダイ狙いだ。3クリやってやや大きめのクロダイを7枚掴まえることができ満足。珍しくキスが5匹も網にかかった。先日もあった20cmオーバーのキスが今日も1匹あり、普通のキスと比べてその大きさに改めて感心した。

漁を終えて帰ってきた時大井漁港間近でブリッジ内でピーピーと音がした。以前にも聞いた音で水温計の警告音だ。冷却水は少ないけどちゃんと船の外に出ていたので、それに手を触れてみて熱さにビックリした。冷却水の流量が少なすぎて温度が上がっているらしい。船をスローにして様子を見ていたら警告音も鳴りやんだので、とにかく魚を水槽に上げて船を岸壁に着けた。ゴーヘー父が機械場(エンジンルーム)に入って調べたら、冷却水のこし器の中に竹くずや木くずがびっしりと溜まっていた。このせいで冷却水の流れが悪くなり水温が上がったと思ったんだけど、ゴミを取り除いても冷却水の温度が60度くらいのままだ。たぶん冷却水の取り込み口が何かで詰まっていると思われ。


○8月12日(月)  <潮の流れ>

今朝4時40分頃船着き場へ行った時皆まだ岸壁に座っていた。どうして誰も出て行かないのか不審に思いそばへ行くと、昨日の朝ST丸が流れモノでペラを曲げたんで、みんな明るくなるまで待つつもりとのこと。うちはそんなことな〜んにも考えず船を出すところだった(苦笑)。

5時頃ようやく重い腰を上げて船を出した。皆西浦へ、うちは梶島へ。梶島へ着く頃には雨が降っていた。長瀬に網をやったところ下り潮の流れが異常に速く浮けが流されて半分沈んでいた。川の流れのような感じで流れているゴミがみるみる西の方へ遠ざかっていく。長さ数mの太い木も枝を海面からグッとだして西へ流れていった。くわばらくわばら。水色は相変わらず濁ったまま。

これほど流れが速いと魚もかからない。長瀬の後水被りをやってカラだったんでゴーヘー父は船を西に向け生田鼻沖まで戻った。ここから一色前までの間でお昼まで漁をやったところ、カラが3回あったけどどうにかコチを15・6本、カレイを10枚程度を掴まえた。

お盆休み前のため札場の値段が上がってきた。みんなの魚が少ない中ひとりFH丸だけ大漁でその恩恵に浴していた。明日こそどこかで魚をたくさん掴まえてこないといけない。


○8月13日(火)  <船がいない>

朝北西の風が少し強めに吹いていた。少し明るくなるまで待って船を出し三河に向かった。OA丸、TA丸と3バイ揃っても続き生田鼻沖で網をやった。2クリやって魚の顔が見えないからと言って、彼らは西浦へ向かった。おかげで広いこの場所にただ1パイで漁ができたけど、カレイが1枚か2枚ずつしかかからないからいっこうに魚がカンコに溜まらない。西浦も魚がかからないらしく、ST丸が無線で「まぁ帰らめぇ。海中でやっとるのは(海で漁をやっているのは)俺たちだけだが」と嘆いていた。もうお盆休みで他の漁協の船はほとんどお休みだからね。

北西の風は次第に凪いでいき波も収まってきたけど、10時頃今度はヤマゼ(南東の風)が吹いてきた。1時間ほどして強くなってきたんで11時に帰ってきた。今日はせめてお昼までやっていたかったなぁ。

夕方の札場はやはりとんでもない値がついた。普段は1本300円程度の小コチが今日は1,000円。セイロに1パイの小コチが1万円以上していた。うちは小コチ3本+中ゴチ1本しかなく、せっかくの高値も意味がない。カレイは普段の2倍でこちらは2セイロあったんで、合わせて1万7千円程度ぐらいだった。大漁とはならなかったが、まぁこれでよしとしよう。


○8月18日(月)  <一セイロ分>

3日間雨だったお盆休みが、その雨と風のため更に1日お休みになって4日ぶりの沖(漁)だった。朝少し遅くうちを出たけどまだ皆船が船着き場にあった。HA丸まで船があってビックリしたけど、どうやらお盆中に親戚に不幸があったらしい。そのお盆中は雨ばかりだったんでまた大量の水が川から海に出てきてるだろうと、みんなで話していた。

暗闇が少しゆるくなってきて皆重い腰を上げ船を出した。西浦を目指して走りうちは小野浦で最初の網をやった。他の人は更にイワテ(北側)へ走り沖の瀬へ行ったようだ。水色はすこし濁っていてよくない。うちはこの小野浦で二クラやって小さなタコが1匹しか獲れず、しかたなく沖の瀬に行って一クラやったけどまたカラだった。みんなが更にイワテに走るので後を追い空港島の北側へ出て、3クラやってようやく小コチを3匹掴まえた。

ここの水色は下り(南)より更に悪く白濁していた。海の中で漁をしているというより池の中で漁をしている感じだ。カンコを覗くとタコがいつもより白くなっていて動かないから棒で突っついてみたらすでに死んでいた。タコなんて滅多に死ぬもんじゃないし水から上げてもなかなか死なないのに、今日はカンコの中で死んでしまったのでただビックリ。水が悪かったんだなぁ。コチが死ななかっただけでもラッキーだと思うしかない。

すでにみんなは下っており、うちもこの後空港島の東側へ下って苅谷の沖でお昼まで5クラやってクロダイとハゴ(小クロダイ)を14・5枚つかまえた。この間無線の声がぴたりと止んだんで、みんなもっと下り(南)の方で魚をつかまえたようだ。

札場に戻ってくると皆ハゴやクロダイが大漁でコチもかなり掴まえてきていた。漁がなかったのはうちだけみたい。夕方の札場でAW丸が1セイロ15,600円というヤツがあったけど、うちは今日の水揚げ高がこれと一緒。一日かかってAW丸の一セイロ分の水揚げというわけか(泣)。


○8月19日(火)  <暑い>

今日は暑かった。とにかく暑かった。ここ最近ずっと涼しかったから昼間の暑さが堪えた。これだけ急に暑くなるとコチが死ぬんじゃないかと心配だったけど、意外に海水温が低く杞憂に終わった。お盆の雨はやはりかなり多かったようで冷たい川水が三河湾に大量に流れ込んだようだ。海水はやや茶色く濁っていて小さなゴミもたくさん浮いており、それらがカンコの中にも入ってきていた。時々バケツですくって捨てたりした。

漁の方は梶島で3クラやった後三河に出てきてお昼までやった。コチが大ゴチ1本を含み全部で12本あり、カレイが3セイロ分獲れたんで満足できる水揚げとなった。一方西浦へ行った人たちは今日も大漁だったようで札場では1セイロ5千円以下がないような状態だった。みんなお盆前から調子がよくて羨ましい限りだ。


○8月20日(水)  <魚行方不明?>

昨日の午後から吹いたヤマゼが激しかったせいか、今朝は妙に冷えた。空には厚い雲があり明るくなってからも昨日とうって変わって涼しく実に快適。

しかし魚の方はどこかへ行ってしまったようで、朝長瀬でクロダイとハゴを合わせて25枚くらい掴まえ、桟橋そばでコチを5本掴まえたきり、まともに魚がかからなくなった。三河組の無線の声も芳しくなく、西浦組の声もあまりよくない。どちらも話半分で聞いておかなくちゃいけないけど、三河へは梶島のあと実際に行って網をやったんで魚がいないことは確実だ(苦笑)。西浦組も早々にこちらに戻ってきて尾張で網をやっている人もあったんで、本当に魚が少ないみたい。昨日のヤマゼでカレイもコチもどこかへ流れていってしまったみたい。


○8月21日(木)  <コチ大漁>

朝長瀬でコチ9本、その後11時までの間梶島西から水被り一帯で8クラやってコチが33本も獲れた。大ゴチはいなかったけど中ゴチのちょっと大きいヤツが5本、普通の中ゴチが15本ほどあったんで割とよかった。しかし西浦組も三河組もほとんど無線で話さないんでどちらも大漁の予感。札場の売り順が今日は最後だからせっかくのうちの大漁もあまりよい値段にならないかも。

夕方の札場では案の定皆大漁だった。特にクロダイが多くてクロダイだけで2万円以上ある人もあった。それに加えてコチを1ケタか2ケタずつ売っていたんで皆4万くらいの水揚げとなっていたようだ。うちらの順番になった時にはどの仲買も軽トラの荷台の水槽の中がクロダイとコチでいっぱいになっていて、「これ以上どこに入れるんだ!?」と思ったほど。全部売ってどうにか3万円の大台に乗ったんで、結果オーライとするしかないな。


○8月22日(金)  <今日もコチ多し>

また長瀬に行くと今朝もコチが10本近く獲れ、カレイも数枚かかった。それ以後も昨日とほぼ同じ場所に網をやっていきカレイが多く獲れた。コチは昨日よりやや少ない上に網にかかって死んだまま上がってくるものもあって、水揚げ高はあまり期待できそうにない。

11時過ぎ頃コチがカンコで死んでいるのをみつけ慌てて帰ってきた。結局全部で5本も死んでしまった。昨日よりコチが少ない上に全体の6分の1も死んでしまってはいよいよ金額は期待できない。

魚を水槽に上げると一旦うちに帰って昼食を食べすぐに船に戻って船を片名(かたな)の造船所に移動させた。今日は船を引いて船底の汚れを落とし明日の朝カーペン(船底塗料)を塗る予定。船を船台に揚げてみたらゼンボのあまりの多さにビックリ。冷却水の取り込み口もゼンボで4分の3くらい詰まっていた。これでは水が流れないわけだ。

夕方の札場では2番売りだったのだが、市場休みの前日のせいか、魚の値段がちょっと良くて小コチなど昨日は1本400円だったけど今日は500円もした。結果、予想外の4万円台半ばという良い水揚げ高となった。お盆前からずっと調子がよい人もいるけど、うちは波が激しいね。漁師らしいと言えば漁師らしい(笑)。


■エピローグ

今年のお盆休みは雨続きで残念でした。バイクでのツーリングを予定していましたが、雨の中ムリをすることもないんで、うちにいて「今日のカンコ」を更新したりマンガ喫茶に入り浸ったり(笑)。マンガ喫茶は今回が初体験でしたが10分50円という値付けは、映画よりは安いけどレンタルビデオよりは高いという実に微妙な値付け。利用は月1回が限度だな(笑)。

船を引いてみて冷却水の取り込み口にあったゼンボに唖然。これじゃダメだと思いました。前回船を引いた時に取り込み口の蓋を開けて中を掃除しなかったんで、ゼンボの増殖を助けてしまったらしいです。船を引いたら毎回きちんと掃除しなくちゃダメですね。


■次回予告

Vol.49 「秋の大潮」 2003年9月6日(土)発行予定


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