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【Uターン漁師のゴーヘー通信】Vol.52 中西の風
                                  2003年10月18日発行
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■中西の風

「中西の風」とは北西の風のことを言います。この風が吹く時の気圧配置はいわゆる「西高東低」の気圧配置で、気象予報では冬の代名詞のように使われていますが、他の季節であっても台風が通過したおり一時的に西高東低の気圧配置になって中西の風が吹くことがあります(台風の場合は「吹き返しの風」ですね)。吹くと気温が下がるので、暑い時期であれば歓迎されますね。

9月のお彼岸が過ぎると秋雨を経て西から移動性の高気圧がやってくるようになります。天気は周期的に変わり雨の後中西の風が吹き気温ががくっと下がってきます。一雨ごとに秋が深まる時期です。

こうした気温の変化は海にも変化をもたらします。

気温が下がればそれに連れて当然海水温が下がります。海の生物はみな海水温に敏感なので、コチやカレイはとたんにかからなくなります。釣りでいうところの「魚の活性が低い」というヤツでしょうか。冷えた朝など特にいません。おそらくコチやカレイは水温の安定した深い場所へ一時的に移動するのでしょう。

こうして9月下旬は不漁となるわけですが、10月に入ると魚たちも水温低下に次第に慣れてきて、冷え込んだ朝でもポツポツとカレイやコチがかかるようになります。まだ浅いところにはいませんが一段深い場所でかかります。10月中は前日までの中西の風の具合や朝の冷え込みの具合を勘案しながら網をやる場所を決めることになります。

朝の気温が10度下回るようになる10月下旬、コチはほとんど獲れなくなる一方、カレイの体には明らかな変化が表れてきます。以前はエサを食べて膨らんでいたお腹が、内蔵がある場所よりも下側(尾側)に膨らみが目立ち始めます。「子」が出来てきた証拠です。「子」とは卵巣・精巣の総称で成魚にはすでにあるものですがこの時期これが大きくなり始め、この膨らみがどんどん大きく長くなり最終的には尾の近くまで伸びていきます。

このような子を持ったカレイは産卵のため浅い場所に集まってくるので、こうした場所でまとまって網にかかるようになります。一クラで大ガレイが10枚もかかる、なんてこともあります。11月にはどのカレイもお腹がポンポンに膨れていて今にもはち切れそうです。仲買人がカレイのお腹を指で撫でながら「腹が膨らんできたなぁ」と言うようになります。

腹が膨らんでくるとカレイの値段は急激に下がっていきます。例年の最安値はキロ500円、大ガレイ1枚がわずか300円程度。夏なら1枚で3,000円もするような特大大ガレイ(重さ1kg以上)でも500円という安さになります。はたして今年はどうなるでしょうか。

中西の風が吹き始めると漁に出られる日が少なくなります。「また今年も冬が来たんだ」と実感する時です。しかしこの風がカレイを浅瀬やその周辺に集めるのもまた事実です。中西の風が気温と海水温の低下を招き、海水温が一定以下に下がった時カレイの体に変化が現れ子が膨らみだし、カレイを浅瀬とその周辺に集わせるのです。

まさに「秋は中西の風が吹くと魚(カレイ)が獲れる」(ゴーヘー父談)と言えるでしょう。





■今週のゴーヘー

○10月4日(土)  <土曜も出漁>

今月から土曜休み・市場休みが無くなった。漁に出たい人は毎日好きなだけ出られる・・・・。

好きなだけ出られるが今朝は北西の風が吹きつけていた。空港島の風下なら網がやれるけど、そこまで行くことができない。しかたなく防波堤の根元で集まって話していたら、明るくなるにつれて風も収まってきた。風が収まれば行けるので、日の出前、出ることになった。

昨日帰る前にやっていた苅谷沖へ行き7時丁度に網を入れた。周りには3バイの船がありそろって網をやったから、「いっぺんに(魚が)片づいちゃう」とOA丸が無線で冗談を言っていた。しかし肝心の魚がいなくて一クリやってみんなイワテに走った。片づいちゃったのは船の方だった。

前島前でFH丸とYS丸がやっていた。どうやらこちらも魚がいない様子。到着したどの船も思い思いの場所で網をやったけど、やはりあまりかかっていないみたい。うちももちろん魚がかからない。時々忘れた頃にカレイやコチが1つか2つかかるだけだ。空港島の北で4クラやってから蒲池まで上ったらすでに10時半。更にイワテの大野まで行って一クラやったけどカラで下ってきた。カンコにはカレイ4枚、小コチ3本、クロダイ3枚しか入っていない。12時に野間の防波柵のそばでやったらコチ3本とカレイ2枚がかかったが、今日は仲買に相対で買ってもらうんで漁はこれで止めて帰ってきた。秋になって魚の値が下がり気味だから、今日の漁では5・6千円程度だろう。


○10月5日(日)  <朝が寒い>

今朝も少し風が吹いていた。北っぽ(北の風)が吹いていて港の中はシマけていた。吹いてくる風が冷たくて寒い。手がかじかむ中、30分くらいみんなでしゃべってたけど風が急に凪いできたので船を出した。

うちはYS丸と共にアイバ尻を目指して走った。到着すると片名(かたな)のSE丸が吉田港前で早くも網を上げていた。うちはその東側へ網をやったが、YS丸はそのまま梶島まで走っていった。彼が梶島で漁をするなんて珍しい。

北西の風は強くなったり弱まったりしてずっと吹いていた。空は曇っていて陽が差してこないんで妙に寒い。10時過ぎまで梶島からアイバ尻の間で漁をしたけどカレイが5・6枚と小コチ1本が獲れただけでカンコは寂しいままだった。10時半に一色前まで移動して3クラやってカレイを8枚ほど掴まえたが、あとはダメだった。

みんなも同じような状態だけどST丸だけは朝クロダイに当たって大漁だったようだ。昨日TA丸がやっていた場所でかかったそうで、今日すぐそばにいてその大漁を見ていたらしいTA丸は随分悔しがっていた。


○10月6日(月)  <今日も寒い>

今日も寒かった。曇っていた空から雨が落ちだしたのは8時頃。小雨から次第に本降りになり、それから二クラ連続でカラだった。9時半、さすがに嫌気がさして帰ってきた。


○10月7日(火)  <あいにくと>

6時、アイバ尻に到着して網をやった。いきなりカレイ11枚と大ゴチ1本がかかってビックリした。昨日はまったくいなかったのに今朝は一クラで昨日の1日分がかかってしまった。その後も11時までの9クラでカレイが38枚、コチが4本もかかった。いっしょにエイの新子もたくさんかかってきた。たぶんカレイより数は多い。カレ網というより「エイ網」状態(笑)。

この時期としては大漁だった(エイは除く)けど、あいにくと今日は札場が休みだ。それで仲買に相対で売りに行くことになる。もちろん札場より1割くらい安いが、持っていった分はすべて買ってくれる。魚が少ないこの時期は仲買としては相対取引は歓迎だろう。特に今日のような大漁は大歓迎のはず・・?。


○10月8日(水)  <好事魔多し>

今朝もアイバ尻へ直行した。網をやる場所へ到着すると、すぐそばの海苔の竹の間にアオサを取る船が3バイあってアオサを満船していた。嫌な予感がする中網をやりガランガランを引き終わって網を揚げ始めると予感的中。昨日は影も形もなかったアオサが網にびっしりと付いてきた。ひたすら取る・取る。アオサに混じってカレイが5枚、大ゴチが1本かかっていたけどこの場所はもう止めて吉田港前へ走った。

吉田港前では7クラやってコチが3本とカレイが27枚(含む大ガレイ6枚)も獲れた。無線の話を聞いてると他のみんなは大した漁が無い様子だ。うちだけ大漁か?と思った矢先、吉田港東の恵比寿鼻前でガランガランを引っ張ってる最中に網をひっかけてしまった。網を揚げたところ、引っかけた部分が長さ数mに渡ってズタズタになっていた。まさに好事魔多し。

この後梶島の赤灯台そばで2クラ、アイバ尻で2クラやったけど大ガレイ4枚と振るわず、午後は尾張に戻ってきて3クラやったけどカレイ2枚(含む大ガレイ1枚)とタコ、ガニだけだった。やっぱ網を破ったのがケチの付き始めのようだ。

札場では大ガレイが1枚700円程度。コチは4本で3千円ちょっと。秋たけなわとなってさすがにカレイも安くなってきた。コチが安いのも閉口だ。


○10月9日(木)  <腹痛>

昨夜寝ようとした時急にお腹が痛くなった。いつものように新聞を持って便座に座るとあまり勢いは良くないが下ることは下る。そのうちお腹の痛みが酷くなってきた。夕飯に食べたものでなにか食あたりするようなものがなかったかと痛いお腹を抱えながら必死に考えたら、怪しい物が3つ思い浮かんだ。

1つはゆでたガニの甲羅の汁、2つめはすき焼きの豚肉、3つめは前日夜のカレイの煮付け。甲羅の汁を飲んだ時とても塩辛くて喉越しが気色悪かったため、その後の食があまり進まなかった(それでも普通に食べたが(^^ゞ)。豚肉は火の通りが悪かったかもしれない。カレイの煮付けは午後鍋ごと食卓上に放置してあったものを温めて食べた。この時加熱が足りなかったかも・・・いや放置してあったことがそもそもわるかったかも。

かように思い当たる節がありすぎて腹痛の原因が特定できない。腹痛は酷くなるばかりで便座に座っているのが辛くてたまらない。横になって体を休めたいがトイレから離れるのはもよおした時辛いんで、しかたなくトイレの中で横になった(苦笑)。マットが敷いてあるが手足ははみ出て頭は戸の敷居の上だ。手足も頭もちょっと冷たい。こうしてしばらく横になっていたら腹痛も弱まりようやくトイレを脱出できた。都合40分間入っていた。

今日はもうなんともなくて元気に沖に行きました。


○10月10日(金)  <10日目>

今月に入って休みがなく連続10日沖へ出ている。この時期こんなに出られるのはとても珍しい。去年など半分の5日間しか出られなかった。魚があまり獲れないから休みが多くては困るけど、沖休みがないと海も休みがない。少し風でも吹いてお休みになった方が良い。

と思ってたら土日は秋祭りでお休みらしい。全然知らなかった。


○10月13日(月)  <マゼ!>

家の外に出たら妙に暖かかった。じきに風が吹いてくる予報でみんなは船を出さずにしゃべってた。うちはかまわず船を出して梶島へ向かった。すでにマゼがそよそよと吹いてきてた。

梶島で二クラ、吉田港前で一クラやった頃マゼが強くなってきた。もう一クラやってるうちに風が吹きつけてきて波が高くなってきたんで、これを揚げると逃げるように帰ってきた。カレイを5・6枚掴まえただけだった。それにしてもこの時期にマゼとは珍しい。


○10月14日(火)  <やられた!>

昨日の風が朝まだ残っていてのんびり寝てたけど、6時頃船を出した人がいたんで慌てて支度をして出かけた。沖に出たらやっぱり波がひどくて昨日の帰りの時くらいの波が北西から押し寄せてくる。それでも一色前あたりまで行くと海に刺さっている海苔の竹のおかげで波は穏やかになった。

船を出した4人は吉田港前で網をやっていてうちはアイバ尻で船を止めた。網を揚げるとアオサが大量についてきた。もう一クラやっても同じ。この付近ではもうどこをやってもアオサが網についくるようだ。吉田港前に行って一クラ、戻ってきて二クラ。この頃には風はやみ海は穏やかになっていた。11時ちょっと前に梶島へ行って赤灯台そばと桟橋前で一クラずつやった。桟橋前で雨が降ってきたんで網を揚げたら帰ってきた。

札場で今朝みんなが梶島へ行ったことを聞いた。道理で梶島にカレイがいないはずだ。「なんにもおらんがや」と梶島でしゃべってたYS丸はみごとな大ガレイを10枚くらいセイロに入れて売っていた。FH丸は桟橋前でやったらしい。やられた!。


○10月16日(木)  <寒い!>

朝まだ風が吹いていておまけに今年一番の冷え込み。北の船着き場で夜が明けるまでしゃべっていたけど寒くてしかたがなかった。セーターを着ていって正解だ。

明るくなっても風は吹いていたけどみんな船を出した。ST丸だけが西浦へ向かい残り6パイは北西の風と波を横から受けながらアイバ尻へ向かった。うちを含めて3バイはそのまま吉田港前まで走り網をやる。3クラやってカレイが大小合わせて13枚。1枚ヒラメと見まごうほどの特大のカレイが網に掛かってきてビックリした。夏ならこれ1枚で3,000円くらいするだろなぁ。

アイバ尻へ戻ったころから風が一段と吹きつけてきたが、日が高くなってきて寒くはなくなった。朝は手に当たる風が冷たくてがまんできないくらいだったが、この頃は風が当たっても冷たくなく気持ちよかった。ここで2クラやってカレイがまた13枚かかった。大ガレイも2枚あり。

9時過ぎに大川(矢作古川)前に移動して網をやったら大量のアオサがかかってきた。強風の中丹念にアオサを取りながら1時間も掛けて網を揚げた。風はかなり強くなってきておりアオサ取りはかなり疲れたが、もう一度アイバ尻に戻って網をやった。今度は何もかかっておらず、網揚げ中にみんなが帰ってしまったのでうちらも帰ってきた。

午後強風の中船で網をきよっていたら3時頃から急に冷えてきた。木枯らしの様相だ。札場で魚を売っている最中もみんな寒がっていた。


○10月17日(金)  <大ガレイ逃げる>

朝、昨日より強く北西の風が吹いていた。北の船着き場も二人しか出てきておらず船を出すかどうか、ゴーヘー父も少し迷っていたが、港のシマケが少し細かく船のマストの旗が時折垂れるのを見て船を出した。今日は風が凪いでくる予報なのでそれに賭けたわけだ。

浦口を出たらやはり北からの波が高かったが走れない程じゃなかった。明神様までは後ろから、明神様を回ると前から波を受けながら前島まで走った。遙か後ろからカレ網の船が走ってくるのが見えた。

前島には6時半頃着いた。日の出前の寒さの峠は越してすでに陽射しが暖かい。網をやる場所を逡巡している間にみんなも判別できる範囲に来ていた。波があり船がよく揺れる中網を入れた。ここと広瀬・空港島北で11時までやって、カレイ18枚、コチ1本を掴まえた。カラが2度あったけどみんなもカラが多いと嘆いていて、いつの間にかそれぞれ下っていた。うちも11時に苅谷沖まで下り大谷前でお昼を迎えた。下ってからはカレイ3枚だけだった。大ガレイ1枚には逃げられたし。

この逃げた大ガレイは網にもたれるようにして上がってきて、ゴーヘーが網の汚れを取っている時ゴーヘー父がなにか一人で慌てているんで顔を上げたらちょうど大ガレイが逃げていくところだった。カレイは「バック」できるんで体を半分網に突っ込んでいても逃げてしまうんだよなぁ。早くタマ(タモ)ですくえば良かったのになぁ。


■エピローグ

毎朝寒いです(苦笑)。日が出て太陽が地平線を離れる頃には寒さが緩んできますが、それまでは寒いです。まだ手足が凍えるほどではないんで、ちょっと眠くなったりします。

これから子を持ったカレイが獲れるようになります。ただ個人的には産卵時期のカレイは獲らない方が良いと思っています。生まれる卵が少なくなればそれだけ生まれる新子も少なくなり中ガレイ・大ガレイに育つものも少なくなるわけですから。

今年から新子(1年生)のカレイはうちで食べる分を除き逃がしています。カレ網で獲れる新子は女性の手ぐらいの大きさで唐揚げにはちょうどよいのですが、来年になれば中ガレイとなって値段はぐっと良くなります。他の漁では新子のより小さいヤツもたくさん獲っているようですが、せめてうちの網にかかった新子は逃がしてやりたいです。


■次回予告

Vol.53 「自由競争」 2003年11月1日(土)発行予定


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