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【Uターン漁師のゴーヘー通信】Vol.55 生まれた時から
                                   2003年11月29日発行
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■生まれた時から

カレイ(ここではイシガレイ)の産卵は晩秋のこの11月です。10月頃から膨らみ始めたお腹がはち切れんばかりになった11月の、おそらく大潮時に海岸沿いの浅い海に集まって産卵するのでしょう。

産卵は1度で終わりではなく数回に分けて行われるようです。産卵時期なのに妙にお腹の張りがないカレイがいることがそれを物語っています。日を追ってそのようなカレイが目立ち、ある日を境にさっぱり網にかからなくなります。産卵が終わってどこか深い場所へ移動したのでしょう。

カレイの卵がどの程度の日数で孵るのかわかりませんが、生まれた時がそうであったように卵から孵る時も多くの卵がほぼ同時に孵るようです。同じ親から同時に生まれ育成の条件も同じなら孵る時も同じになるのは道理ですね。

こうして一斉に孵った幼生達は潮の流れに乗って一斉に流されていきますが、あまり拡散はしません。川と違って海の中での拡散は案外時間がかかります。流される途中で小さな魚などに食べられるものも多くいるでしょうが、冬の海中は生き残りに有利なようで相当数が生き延びていくことになります。

カレイは幼生から幼体に成長する頃までは普通の魚のような姿をしています。その後成長するにつれてカレイらしくなってきます。翌春には子供の手のひらくらいの大きさになり時おり鵜の鳥に掴まって食べられているものを見かけたりします。そして9月頃からカレ網に成体のカレイに混じって新子としてかかり始めます。ようやくカレ網にかかるほどの大きさに成長したわけです。

この新子達はどれもほぼ同じ大きさをしています。多少成長に差がありますがせいぜい尾の長さの半分以下の差でしかありません。そしてかかる時には一クラで十数枚もかかりますが、群れで行動するサケやサンマ、アジなどのような魚とは違うので、多いと言ってもせいぜいこの程度です。

この時各個体をよく見ると背中の白い斑点の位置や数、大きさがそっくりな個体があります。それらはたぶん兄弟姉妹なでしょう。

そして同様なことがより大きくなったカレイ達にも言えます。一クラで5枚、10枚とかかる時がありますが、そのかかったカレイ達を見比べてみると体の大きさは同じくらいで、白い斑点の位置や数、大きさが驚くほど似ているものがあります。別な場所で獲れたカレイの斑点がかなり異なっていることから考えても体の大きさが同じくらいで同様な白い斑点を持つカレイは同じ年に生まれた兄弟姉妹だと思われます。

単独行動が基本のカレイですが、生まれた時から潮の流れに乗り皆ほぼ一緒の行動パターンなのでしょう。常に身近に同年の兄弟姉妹がいて、どこかで前年までの兄弟姉妹や翌年・翌々年の自分の子供達と合流して同様な行動を取っていると思われます。ただし網にかかる具合から考えて、「群れ」と呼べるほど過密な状態ではなく、「近隣の見える範囲・存在を感じられる範囲にいる」という状態のようです。

こうして常に身近に仲間いるので、他の仲間が身近にいる間は安全だけど仲間がいなくなったら危険が迫っている、と彼らは感じるように思われます。仲間がいない場所は「危険な場所」ともいえるわけです。したがってたとえそこにエサがあっても仲間がいなければなかなかやってきません。

カレ網では、カレイが獲れた同じ場所で繰り返し網をやるとしばらく獲れなくなり、「根絶やし」とか「十八番を壊わいちゃった」とよく言いますが、カレイの側から見たら、生まれた時から一緒に行動することが生き残る大切な方法、だと思われるので、仲間がいなくなればそこに近寄らないのも当たり前なのですよね。





■今週のゴーヘー

○11月17日(月)  <ムール貝>

ムール貝を買ってくれる水産業者が見つかったのでうちも採りにでた。しかし11月初めから他の人が採っておりどの程度残っているかわからない。とにかくムール貝が採れるトンビの鼻へ行ってみないことには。

で、今朝初めて行ってみたのだが、あいにくと風が強く海底がよく見えない。見えないがどうも海底が黒くないからムール貝はなさそう。試しにマンガを入れてみたけど数個しか採れない。30分ほどあたりを探索したけどやはり風が強くてダメ。明日出直そう。


○11月18日(火)  <すでになく>

今日は風も波もなく穏やかな良い天気だった。ゴーヘー父はカレ網に、ゴーヘーはテンマでムール貝採りに出た。微風があって水面が少しシマけていたため海底がはっきりとは見えるわけではないが、昨日よりはよく海底の様子がわかる。テンマの上から、春にムール貝があったあたりをじっくりと捜したのだが、岩ばかりでムール貝がさっぱりない。水深2mくらいのところまで行ってみたのだがそこもほとんどなし。8時にはあきらめて帰ってきた。やはり先にやったFH丸達にすべて獲られてしまったようだ。彼らは1,000キロくらい採ったらしいからなぁ。人の後をやっていてはダメだ。


○11月19日(水)  <大ガレイ多し>

朝船を出すとトンビの鼻にテンマと人影が3つ。まだ暗いうちからFH丸達がムール貝を採っているようだ。昨日ムール貝がないかと確認したあたりだ。あの辺にはなかったはずなんだけどなぁ。

ゴーヘー父は「どうせ夜磯(よいそ:夜採貝すること、禁止されている)で採ってきて浅いところに袋ごと置いておいて、朝ああやって採っているフリをしてるんだ」という。あの人は信用されてないんだなぁ(苦笑)。でも、今は夜より朝の方がよく干るからきっと違うだろう。おそらく水に入って小さいコロニーを丹念に採っているんだ。

梶島に行き、9時頃までかかってカレイが6枚(大ガレイ2)しか獲れなかった。大ガレイ2枚のうち1枚は特大で1kgくらいありそうなため、カンコの中では妙に目立つ。今日はダメかもしれないと諦めかけた後、急に獲れだしてお昼までに28枚も獲れた。思わずホッとした。大ガレイが多く全部で14〜5kgありそう。夏なら4万円近くになるけど今は1万円ちょっと。む〜。


○11月20日(木)  <ムール貝再び>

朝雨が降っていた。この時期の雨降りはカレ網がお休みの合図なのだけど、6時過ぎ「貝を取れ〜行くぞ」とゴーヘー父の声がして布団から飛び起きた。採れないのにわざわざ雨の中を行くのはイヤだけど、文句は言わずとにかく支度をして出かけた。

トンビの鼻には人影もなく、やはり雨の日は出てこないよなぁ〜、とボンヤリ考えながら「場」に着くと海底にムール貝の黒い影を発見。おぉ!?、ここにはある!。早速マンガを入れて見るとマンガのカゴに少し貝が採れてきた。今日はいいかも!?。遅れてFH丸達がやってきた。ゴーヘー父によると今朝すでにかいていて、一旦戻ってまたやってきたらしい。入れ替わりでうちがこの「場」に陣取ってしまったんで、ちょっと下りへテンマを泊めてかきだした。

この場所で良い所に当たるとマンガにいっぱいの貝が採れる。採ることに夢中になっていたらいつのまにかテンマを泊めていた錨の留め綱が外れてしまったんで、それ以後はテンマをマンガで操作しながら貝をかくという、随分不安定な状態の中で作業した。でも岩に張り付いた貝をマンガで剥がすには、かえってそれが良かったみたいで、マンガの操作でテンマが移動する勢いに合わせてマンガを引いて貝を採った。テンマの中はみるみるうちにムール貝の山ができ、ゴーヘー父の「選り」がまったく間に合わない。ソコリ(干潮)をすぎてFH丸達が帰ったのに合わせてこちらも引き上げた。

戻ってきて「選り」を始めた。ムール貝は貝から出ている「ヒゲ」で岩や他の貝にくっついているので、これを切り離してゴミと貝および大小を選り分けた。「ヒゲ」をムリに引っ張ると貝が死ぬので迅速な中にも慎重さが要求される。途中で雨よけの天幕を張り12時半までかかった。網袋に詰めて8個分、150kgくらい採れたようだ。ゴミだけでも100kgくらいはあったから、マンガ1つで海底から250kgを引き上げたことになる。なんだかすごいなぁ。


○11月21日(金)  <2日目>

風が吹いてくる予報だったので早めに出た。昨日の場所へ行きかき始めたのだけど微妙に昨日と場所が違うようで、海底に見えるムール貝が小さい。大きい貝の小さいコロニーは見つかるのだけど、それを採っているだけでは手間ばかりかかって量が採れない。

今日は竹竿を差してテンマを移動させて大きい貝のコロニーを探し回ると、初めの場所から少し沖側に大きなコロニーを発見。そこで採り始めたら見る間にテンマの中はムール貝の山になった。はやり場所が肝心だ。

しばらく採ると海底から巻上がった泥で水が濁ってしまい海底がまったく見えなくなった。足が着かないような深い場所でも採れる反面、こうなると船の上から採るのはムリ。足が着く場所で採る方がたくさん採れるけどそんな場所には大きい貝が残っていないしなぁ(捜せばまだあるかもしれないが)。

北西の風もじわりと吹いてきて、マンガを揚げるたび船が風に流されてしまい、元に位置に戻るため竹竿で操船することを繰り返した。これも随分と時間をロスしているが、昨日錨を無くしてしまい今日は代わりの錨を持ってくるのを忘れたのでいたしかたない。9時を回ってさすがに疲れてきて終了。

昨日より少なかったので今日は11半頃に「選り」が終わった。120kgくらいかなぁ。


○11月23日(日)  <海に入る>

昨日から大潮になった。ソコリが近くなってようやく風も弱くなってきたんで今日もムール貝採りに出た。すでに先客がいてテンマの中にムール貝の山を築いており少し焦る。ゴーヘー父はもう少し下りが良いというけど、一昨日最後にやっていた場所の方が採りやすいのでそちらへ移動する。採り始めると貝殻が多いんでゴーヘー父がぶつぶつと小声で文句を言っている。

しばらくしたら海がかなり浅くなってきたことに気づいた。そこで胴長を取ってきて海にはいることにした。テンマをマガナの海岸へ着け歩いてうちに戻り胴長を取ってきた。その間にゴーヘー父に船に戻って柄の短いマンガを取ってくるように言ってあったけど取りに行かずじまい。ムッとしてテンマに乗り込んだらよろめいてマンガの刃の上に手を着きかけてビビッた。それから大急ぎでマンガとカゴを取りに戻り再び場へ戻った。今度はゴーヘー父お奨めの下りへテンマを泊め、海に入った。

海底は岩場でやはり海に入らないとここでは海が採れない。そして入って採り始めたら5分程度でカゴ一杯になった。採るペースが格段に上がり12時過ぎにはテンマの中にムール貝の山ができた。これ以上とっても選るのが大変なので戻って選り作業に入る。午後2時までかかってようやく作業完了。全部で9袋分だった。グッ!


○11月24日(月)  <ムール貝大漁>

今日は最初から海に入る予定で出かけた。昨日より若干深かったけどほぼ同じ場所で採り始めた。マンガに2ハイかくとカゴ一杯になるので、貝がびっしりとある場所ではペースが早かった。唯一の難点は下波(うねり)があって波が胸まで来ることがある点。そうなると体が波に揺られて作業がし辛い。

順調に採っていたのだけど全体に貝がやや小さいのが気になった。10時半すぎに始めて12時半頃にはカゴに14杯分採ることができ、テンマのオモテはムール貝の山となった。一旦休憩してパンをかじりお茶を飲む。再び採ろうと海に入ったのだけど、わずか10分程度の間に少し深くなっており、近くでやっていたFH丸にも声を掛けて止めて帰ってきた。これ以上とっても選るのが大変なので止めて良かったと思う。

港に戻って選っていたらST丸がムール貝採りの様子を伺いに来た。タコやガニが獲れないと愚痴をこぼしていて、ムール貝をやろうか迷っているところのようだ。ただ、うちが貝を選っているのを見てそのあまりの面倒さに腰が引けていた。一人ではやれない作業だからね。後からFH丸もやってきた。彼らの選りはうちらと方法が違うようでずっと早く終わるみたいだ。どうやっているのか?

結局今日は選りに3時間かかった。ネット(網袋)にして12コ分だった。


○11月25日(火)  <選り方法>

今日は雨風でお休みだったんで、雨が小やみになった午後業者に電話して活かしておいたムール貝を持っていった。電話ではあまりたくさんは要らないような様子だったらしいが、先方に行くとその理由が判明した。佐久島の漁師が夜磯に出てまだムール貝を採りたくさん持ってきているそうだ。それでうちからたくさんもっていっても活かす水槽がないらしい。やれやれ。

この時ムール貝の選別方法も聞いてきた。ステンレスの棒をスノコ状に並べたものの上にムール貝を置き両手で貝を前後に動かすときれいに選ることができるらしい。うちは今ハサミで切り分けているから手間が異常にかかっているわけだ。ただ、そのステンレス棒スノコは特注品で結構値段が張るみたい。ハサミなら1本400円だから当分ハサミだなぁ。


○11月26日(水)  <カキ付着>

昼前には風がゆるくなってきた。急いで昼飯を食べて出かけた。鳶が先へ出るとまだ水深が深かった。北の風で波が岸に打ち寄せていてあまり干らないみたいだ。足の着きそうで大きなムール貝のある場所を求めてあちこち移動したけど、そんな場所は皆ぎりぎり足が着くかどうかという所ばかり。海に入って採るのは諦めて長い柄のマンガを取りに戻った。

三日目の前半に採っていた場所へ行ってテンマの上からマンガを海に放り込んだ。1時間半ほどかかってマンガに10杯ほど採る。採れたムール貝はみな大きかったけど表面にカキが着いていてそれを取るのに時間がかかりそうだったんで、ちょっと早いけど港に戻った。午後2時から選り始めて終わったのは午後4時半。わずか5袋分なのにものすごく時間がかかってしまった。


○11月28日(金)  <全部はけた>

朝ゴーヘー父が水産業者に電話したらムール貝を全部引き取ってくれるという返事だった。そこで朝飯を食べてすぐに船に行き17袋すべてを海中から引き上げ軽トラに乗せた。これが思ったより重労働ですっかり汗だく。1つ17kgとして合計289kgもあるのだから当たり前である。ふ〜。


■エピローグ

11月に入るとカレイは安くなり、たまにたくさん獲れる日がある他は毎日の水揚げが1万円以下の日が続きます。去年はガニ(本ガニ・青ガニ)がたくさん獲れましたが今年はダメでした。どうしようかと思案していたところムール貝採りを始めた人がいてなかなか調子が良い様子。仲買のツテを頼ってムール貝を買ってくれる水産業者を紹介してもらい、うちもムール貝採りを始めた次第です。

しかしムール貝採りが軌道に乗った反面水産業者の方がそれを捌ききれず、天候も潮時も今ひとつ悪くて収入にうまく結びつかないです。採った貝を毎日全部買ってくれる水産業者か仲買がほしいところですが、ムール貝自体あまり人気がない貝らしく扱う業者は増える見込みがありません。

黒い姿からあまり美味しそうなイメージが湧いてこないのですが、ネットで検索するとベルギー料理として「ムール貝の白ワイン蒸し」などが紹介されていてなかなかおいしい貝のようです。「蒸す」意外にもスパゲティ、パエリア、シーフードカレー、酢の物、ブイヤベースなど食べ方のバリエーションも豊富で、フランス・オランダ・スペインなどでも盛んに食べられているようです。

一般の魚屋さんでは置いていないところがほとんどのようですが、ネットでは手に入れることもできるようです。一度試してみてはいかがでしょうか。


■次回予告

Vol.56 「船酔い」 2003年12月13日(土)発行予定


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