前一覧
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【Uターン漁師のゴーヘー通信】Vol.56 船酔い
                                   2003年12月13日発行
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


■船酔い

初めて船酔いを体験したのは、小学校2・3年の頃だったと思います。夏休みにうちの船に勇んで乗ってでかけたのですが、乗り込んで船が走り始めるとじきに酔ってきました。夜が明けるまでトモのカンコに入って寝ていたのですが、カンコ内の油臭さと船の揺れで気分が悪くなりとても寝ていられなかったのです。

吐き気とめまいが波の揺れと共にまさに波状攻撃で襲ってきたのですが、子供が一人船酔いしたからと言って漁を切り上げて帰るはずもありません。一日の漁が終わって帰るまで船酔いの原因である船の上で波状攻撃にひたすら耐えるしかありませんでした。港に帰ってきて本来なら札場に船を着けるところを、港の入り口の防波堤に船を着けてゴーヘーだけ先に降ろしてくれました。足元が揺れていないことがこんなにありがたいかとしみじみ思いました。

しかし、実は船酔いはそこで終わりではなかったのです。揺れないはずのオカの上でそれは襲ってきました。「オカ酔い」です。

一日中頭が揺られていた結果その揺れに三半規管が同調し、オカに上がっても揺れが収まらないのです。この「オカ酔い」は船酔いにもまして苦しかったです。家に帰って寝ていてもその寝ている部屋自体が揺れているように感じてめまいがするのです。船の上の船酔いはオカに上がれば揺れていないという希望がありますが、「オカ酔い」はもう逃げ場も希望もなく、酔いが収まるのをただひたすらガマンして待つしかなかったのです。


さて、船酔いの原因ですが、大きく分けて2つあります。1つは「揺れ」で、もう一つは「臭い」です。今回は「揺れ」と「ゴーヘー流船酔いの対処方法」についてご紹介します。

船は常に波に揺られています。船に乗っている人も船と一緒に揺られてしまいます。この「一緒に揺られる」のがくせ者で、三半規管が弱い人はこれで船酔いします。防ぐためには一緒に「揺られない」ことです。つまり船の揺れと逆向きに身体を揺らし、遠く水平線や煙突などを見て常に身体を垂直に保ちます。その際片手で何かに掴まって立っているとなお良いです。

漁の際には下を向いています。屈んで魚や汚れを網からはずすことも多いです。この「下を向く」のは酔う原因の一つです。「下を向く」と自ずと身体(頭)は船と一緒に揺れてしまいます。船釣りをする場合でもエサ付けなどで手元を見て作業することが多いので、初心者は作業に手間取り酔いやすいです。「下を向く」場合はできるだけ時間を短くし、その後は遠く水平線を見て三半規管に垂直・水平情報をインプットしておきます。

船に酔って気分が悪くなると身体を横たえること多いですが、実はこれは最悪です。横になれば必然的に頭が船と一緒に揺れるので、一層酔いを助長してしまうのです。船酔いしてもできるだけ立って身体を垂直に保った方が酔いを和らげます。立った場合には何かに片手で掴まることをお忘れ無く。座っても背もたれに背をつけずに上体を垂直に保つようにすれば酔いが和らぎます。万一船酔いした場合にはこれらの方法をぜひお試しください。

長じて車酔い・乗り物酔いの無くなったゴーヘーですが、船酔いは小さい船に限ってわずかにありました。漁師となって最初の難関がこの「わずかな船酔い」で、目をつむると「あれ?、酔ってるのかなぁ」という程度の船酔いは2年近く感じました。三半規管が弱いせいですが、さすがに2年を越える頃から船酔いはまったく感じなくなりました。

今、風の強い日に波で激しく揺られながら、テンマでムール貝を採っていることがあります。テンマの舳先に立っていると上下に揺られるのが気持ちよくさえ感じます。ただ、ずっと下を向いて採ったムール貝を揃えているゴーヘー父は、時々酔うみたいです。





■今週のゴーヘー

○12月2日(火)  <風が、波が>

北西の風が強かったけど日の出前に出かけた。鳶ヶ崎が見える海岸沿いに車を進めるとすでにFH丸が海に入っているのが見えた。また暗いうちから海に入っていたようだ。

場に到着するとすぐに海に入った。すでにソコリ(干潮)を過ぎておりやや深めだった。海底は暗くてまったく見えない。足でムール貝を探りマンガを入れるのだが、風で波が寄せてきて胸まで来るので身体が流されそう。波をやり過ごしながらマンガを引くがどうにもやりづらい。しかたなく浅い場所のムール貝を求めて付近をさまよい歩くが、浅い場所では皆貝が小さく一向に貯まらない。7時半を過ぎいよいよ水深も増してきてギブアップ。わずかに2袋分しか採れなかった。


○12月3日(水)  <風が収ま・・・らん>

風が収まるとの予報で朝から波は低め。波がなければ海に入ってかきたいところだけど、今度の潮は前回に比べて潮の引きが悪い。今日のソコリ(干潮)も昨日よりも潮が引かないから、始めからテンマの上でかくつもりで出かけた。

まずイワテ(北)側のカキがムール貝表面にたくさん付着している場所でかき始めた。最初前回と微妙に違う場所で錨を降ろしてしまいうまくかけず、すぐにちょっとタアカ(岸側)へ移動して目指す場所に行き当たった。そこでマンガに10杯分くらいかくとあたり一面濁ってしまい海底がまったく見えなくなった。しかたなくもう少し下り(南側)へ移動したら運良く大きめのコロニーに遭遇しそこに錨を降ろした。しかしその頃風が急に強くなり始めテンマが風に流されてやりづらくなり、しかたなく終了。

戻ってからの「揃え」(複数のムール貝の塊を1コ1コに分けること)にが、ムール貝表面に付着したカキのために大変だった。わずか6袋分しかなかったのに揃え終わるまで3時間もかかった。しゃがんで背を曲げてやってるんで腰のあたりが曲がり癖がついたみたいに痛い。


○12月4日(木)  <カキ引き>

昨日の夕方、仲買の一人から電話があって「カキを引いてほしい」とのことだった。ムール貝の方は、仲買が業者の方へ電話して事情を話したそうで、うちはムール貝採りを中断して「カキ引き」にショウバイ替え。

夏から目をつけていた場所があって今朝はそこへ直行し、ナマコ用のマンガを海底に降ろしカキを引き始めた。15分くらい引いてマンガを揚げて袋網の中身を出しマンガは再び海中へ降ろす。マンガを引く間カキの選り分け作業をやる。作業方法はナマコ引きと同じなので同じマンガを使ったのだけど、袋網に入るものがナマコ引きの時より多くて、カキの他にカキ殻・貝殻がごっそりと入る。たぶん中身だけで30キロ以上あると思うんだけど、マンガの重さも加わって一人ではとても揚がらない。マンガをテンマに引き上げてから網袋を引き上げるのが更に大変。テンマを横転しそうな程傾けてどうにかこうにか引きずり揚げる。

しかし袋網の中身をマンガの入り口から出すのがまた一苦労だった。ナマコと違ってカキはマンガの入り口で引っかかるため袋網とマンガを揺すっても中身が出てこない。ひっかかってるカキ殻を手で取り除いて揺するとまたすぐに他のカキ殻がひっかかる、を繰り返しながら中身を出す。これをお昼まで10数回繰り返したらもうくたくた。丁度風も強くなりカゴに4ハイ分カキが貯まったので今日は終了。

港に戻ってネット(網袋)に詰め直し仲買に所に持っていき、うちに戻って昼飯を食べた後マンガを一回り大きいものに交換した。これでマンガの入り口にカキが引っかかるのは減るだろう。はぁ〜、くたくた。


○12月5日(金)  <大波>

昨夜ムール貝を扱う水産業者から電話があって、在庫が少ないから取ってきて欲しいとのことだった。今日明日と業者はお休みだそうで、二日間かけて取ったモノを日曜日に持っていくこととなった。

今日もテンマの上からマンガでムール貝を採っていた。丁度ソコリ頃、採っていた場所のすぐ沖にある浅瀬で大きく波が砕ける音がした。すぐにそちらに視線を移したら、50cmくらいの波が複数押し寄せてきてた。ムール貝をたくさん積んだ状態のテンマがこの波を横から喰らうと転覆しそうに思え、慌ててテンマのオモテを波に立て背中を向けて座ると波が到着した。テンマの船首で波頭が砕け首から下に波を被ってしまいビックリした。近くで海に入ってムール貝を採っていたFH丸は、大波に合わせて必死にジャンプして波をやり過ごしていた。急な大波でビックリしたけど、5分くらい前に自動車運搬船が下って(南下して)いったのでたぶんその引き波だろう。

ムール貝採りは順調で今日はマンガで26杯分もかき、テンマのオモテが重さで沈んできた。側面にある水はけ口から海水が入ってくるほどで、さっきの大波が喰らったら一発で沈没しそう。ゆっくりと走って帰ってきて、昼食を挟んで夕方まで揃えて、終わらず。カゴ4ハイ分が残ってしまったんで、これはまた明日やる予定。


○12月6日(土)  <潮がのろい>

東風が吹いて雨が降る予報だったけど、東風は吹かず雨は小降りだった。明日は北西の風が強く吹いてムール貝採りはできそうにないんで、昨日の残りを揃えるより今日もムール貝採りをやることにした。

今日の潮は昨日と違って実にのろかった。ソコリ2時間前にも関わらずほとんど潮が動いていなくて、マンガを使った後の海底の濁りが流れることなくその場に留まりゆっくりと拡散していく。採り続けるとじきに付近一面濁って海底が見えなくなった。そこで、数m離れた2カ所を濁りを避けて交互に移動して採った。

マンガに15・6パイほど採った時やや大きめの波がやってきて海底が見渡す限り濁ってしまった。できるだけ濁りの少ない場所を探して採っていたけど20杯目を採った時、東風が吹き始めたんで帰ってきた。それからまた夕方まで揃えたが今日の分も残ってしまった。


○12月7日(日)  <8カゴ分>

朝8時からカゴに入れておいたムール貝を揃え始めた。1カゴ揃えたところで昨日までの分と合わせて13袋を水産業者に持っていった。戻ってきてから続きをやって昼を挟んで午後3時半までやってようやく8カゴ分をすべて揃え終わった。朝から北西の風が強くて寒かったけど終わり頃は一層寒かった。


○12月8日(月)  <西の風>

今日は西の風が強かった。西の風だと鳶ヶ崎は風陰になるので波も高くなく潮もよく干り都合がよい。10時過ぎに勇んでテンマを出すとすでにFH丸兄弟がやっていた。今日の彼らはマンガに竹竿をつけてテンマの上からムール貝をかいていた。うちのスタイルを真似たんだね。今はソコリでも足がつかない程深いから、このスタイルでないとムール貝が採れないからね。

いつものように錨を降ろしてかき始めたんだけど、いつもと違って西の風のためテンマが沖側へ流されてしまいかきたい場所にうまく留まれなかった。何度か錨をやり直してどうにか場所を決める。

今日も潮が鈍(のろ)くてかいた後の海底の濁りがその場で拡散した。2・3度かくと直径3mくらいが濁ってしまい続けてかくことができないので、錨綱を伸ばしたり縮めたりして場所を変えかいていた。かなり手間がかかったけど昼までにマンガ20杯分をかくことができ、昼食後夕方までかかって揃えた。明日は朝からムール貝表面のカキ取りだ。


○12月9日(火)  <風強し>

昨夜業者から電話があって明日ムール貝採りに出て欲しいとのこと。もちろん出るつもりでいたのでそのように答えた。しかし今日も風が強く昨日の電話がなければで採りになかったかもしれない。

10時半頃鳶ヶ崎へ行くといつもより下り側にFH丸兄弟がいた。波が弱いところに陣取っている。こちらはいつもと同じ場所へ行き錨を降ろしてかき始めた。波でテンマが上下し強い風に煽られ流されながら懸命にかく。しかしマンガに10杯分かいたところで限界に達し、波の影響を受けない浅瀬の下りへ行きムール貝を捜して錨を降ろした。12時までかいてマンガに20杯分かいてきたけど昨日より貝殻が多く混じっていて、揃えたらネットに6コ半しかなかった。


○12月10日(水)  <テレビ>

朝一昨日の貝を揃えた後、10時に全部業者へ持っていった。ネット袋で16コあった。業者で荷を降ろし社長とちょっと話したところ、3日前の夕方テレビニュースでムール貝のワイン蒸しが放送され、以来注文が相次いでいるとのこと。その日たまたまうちでもそのニュースを見ていたんで、ニヤリとした。

一旦船によりうちに帰ろうとしたら、鳶ヶ崎にテンマの陰が見えた。早くもFH丸兄弟がムール貝採りに出いているらしい。うちもすぐに支度をして出て行ったが、今日も風が強く風は北から吹いてきていて波も激しいため、岬の風陰に入ってムール貝を採った。それでも風にテンマが流され、岩の間にいるヤツを採るのは実にやりづらかった。貝殻も多かった。

12時のサイレンが鳴った頃、目標のマンガ20杯分を取り終わりそそくさと帰ってきた。昼食後夕方4時まで揃えた。今日のムール貝は表面にカキがついておらず、身も詰まって重かったがやや小ぶり。全部で5袋半だった。


○12月11日(木)  <凪>

ようやく凪いだ。10時半にテンマを出し、いつものタコ瓶がある場所へ行く。今日はまだ先客はいない。

ソコリにはまだ2時間半もあるので水深が深い。潮はやや速く、かいてできた海底の濁りがゆっくりと下りへ広がっていく。マンガに18杯分くらいかいた頃、FH丸兄弟がやってきた。今日はカキ引きに行っていたそうで遅くなったらしい。う〜ん、よく働くものだ。

うちは12時半で切り上げて帰ってきた。マンガで23杯分だ。ちょっと多かったみたいで夕方までかかても揃え終わらなかった。


○12月12日(金)  <連続>

朝昨日の残りを揃えて業者へ持っていった。二日分で15コ半。まずまずだ。

揃えている最中、FH丸が様子を見に来た。今日は風が強くなるから止めだとお互いに言い合って笑ったのだけど、お昼近くになったら風が凪いだ様子だったんで早めの昼飯を食べて出かけた。一昨日風が強い日にやっていた場所でマンガに6パイ分採ったところでFH丸が一人でやってきた。兄貴は用事で来られないらしい。ムール貝採りは一人では大変だから、今朝様子を見に来たふりをしてうちにも休むように促していたんだ、と理解する。

FH丸はイワテのタコ瓶のある場所へ行ったのでうちもそちらへ移動した。風は西風が吹いていてテンマは沖側へ流されるので、それを見込んで錨を降ろす。午後1時半頃までに、マンガに27杯分かくとテンマのオモテがグッと沈んできた。丁度西風が一層強くなってきたため、不意の横波が来ると今の沈んだ状態のテンマでは危険なので帰ってきた。浦口から中堤防のそばまでの間ゆっくりと走ったんだけど、正面から強い風を受け舳先から水を被りながら走り続けた。

ところで、今日で11日連続で働いている。12月としては極めて異例。カレ網でもこれだけ連続で漁に出ることはないから、働き過ぎな感じもする。ムール貝採りもそろそろお休みが必要だ。


■エピローグ

今年の冬はムール貝採りができて本当にラッキーでした。先月は貝をもてあまし気味だった業者も今月は採れば採っただけ買ってくれるようになり、休む日もないほどです。ムール貝採りをやっているのも2組だけなので、採りすぎてなくなることを心配する必要もまだありません。

他のカレ網漁師はナマコ引きとカキ引きに分かれていて、それぞれそれなりに水揚げがあるようです。例年はナマコ引きに集中してしまうので、今年は皆それぞれにとって都合が良いようです。

ムール貝はクリスマスまでは注文が多く入るそうで、それまでが勝負です。それまでは少々ムリをしつつもムール貝採りに励む予定です。


■次回予告

Vol.57 「水平線までどのくらい?」 2003年12月27日(土)発行予定


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
Copyright (C) 2001-2003 Gohe.




前一覧


ゴーヘー通信トップ