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【Uターン漁師のゴーヘー通信】Vol.59 港内スロー
                                    2004年1月24日発行
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■港内スロー

あなたが車の運転免許と車を持っていて実際に車を運転する時、制限速度を厳守して走るでしょうか?

ゴーヘーはわりと制限速度を守るほうで、高速でも時速100キロで走っています。100を越えると自分の車の速度警告音がキンコンカンコンとうるさく鳴るのが嫌なせいもありますが(^^ゞ。

道路上と違って海の上には速度標識などありません。広い海の上を時速何キロ(海上ではノット)でどこを走ろうと自由です。日本海を国籍不明(といっても実は明らかですが)の不審船が海上保安庁の巡視船を振り切って逃げられるのも、障害物が何もない海上を強力なエンジンで全速直進できるからですね。
(もっとも、制限速度を気にして逃げる犯人はいませんが(^◇^;))

伊勢湾の野間灯台沖合では夏になるとスーパーボートが猛烈な爆音とスピードで走っていることがあります。日本海の不審船と違ってこちらは個人所有のレジャーボートですが、スピードは不審船より更に速いです。自由で広い海上とはいえ岸にも近い場所で定置網や釣り船・他のレジャーボートなどが多い海域なので、他人事ながら事故が心配です。

スピードを出すことなら漁船も負けていません。不審船やスーパーボートのようなスピードはさすがにでませんが、なにしろ漁師は他人との「競争」が「命」です。船のスピード自慢も皆人一倍熱弁を振るいます。「○○まで30分で走る」と誰かが言えばもっと遠い「△△まで40分で行ける」と応じます。時間でかなわなければ、エンジンの回転数の低さで応じます。エンジンをたくさん回さなくても俺の船は速い、と言いたいわけです。

こうして常日頃からスピード自慢をしている人も、港の中ではさすがにスピードを落とします。狭い港内でスピードを出していては船の自由が利かなくて危険です。港内には繋留されている船も多いし、岸壁で囲まれていて逃げ場がないです。港内にさしかかってもスピードを落とさないのはまさに自殺行為。船か岸壁にぶつかって「自分の船」を壊してしまっては元も子もありません。ちなみに相手の船のことは、たぶん心配していません。相手の船より自分の船のほうが大切だからです。

港の入り口の防波堤には「港内スロー」と赤く注意書きがしてあり、港の中では船足を落としてゆっくり進むように促していますが、その注意書きに目を留める漁師はいないのです。

それが証拠に小さくて操船の自由が利くテンマ船では、港内でも皆ほぼ全速で走っています。テンマ船は小さいがゆえスピードを出していても船や障害物を避けやすいからです。小さくても全速で走れば引き波が大きくなるので、港内に繋留されている船は随分と波で揺れますが、お互い様なので皆気にしないようです。

それよりテンマ船でトロトロ走っていたら、他の漁師から笑われるかもしれません。笑われてバカにされるのは「競争命」な漁師の沽券に関わるので、今日もテンマ船は全速で港内を走っています。


あ〜、上記文章は一部に誇張があるようです。ご注意くださ〜い(^^ゞ。





■今週のゴーヘー

○1月10日(土)  <のどか>

朝はグッと冷え込んだけど、その後気温が上がって風もなく穏やかな一日だった。今日は業者がお休みのため夕方は4時半まで揃えた。冬至の頃に比べ日没時刻が20分近く遅くなったんで、こんな時刻までやることができた。


○1月11日(日)  <猛烈な風>

朝8時から9時の間ムール貝を揃えて、その後、一昨日の電話で今日の朝ほしいとのことだったので、業者へ持っていった。その際今日は風が強すぎて採りに出られないと告げて帰ってきた。
揃えなきゃいけない残りがあったけど風があまりに強くて寒い。明日の方が風なくて天気も良さそうだったので残りは明日揃えることにした。


○1月12日(月)  <暑いくらい>

朝はもちろん冷え込んだけど9時にはすでに暖かかった。風もなくテンマの上で揃えるには絶好の日となる。昨日やらなくて正解だ。順調に揃えて11時に中断し早めのお昼を食べに帰った。12時に船に戻り今度はムール貝を採りに出た。鳶ヶ崎にはFH丸がまた先に来ていたので、普段より沖側でかくことにした。

この場所は初めてかく場所でムール貝が特に大きかった。ただ貝殻も多くてマンガに30杯分かいてもテンマが思ったほど沈まなかった。まだ5・6パイ分かいても大丈夫だったけど、潮がのろくなって海底の濁りが流れずテンマの近辺が一面濁ってしまい海底が見えなくなったため、かくのを諦めて帰ってきた。

夕方4時半まで揃えて残りをネットに入れて海中に活かしてたら、帰る頃にはさすがに薄暗くなってしまった。


○1月13日(火)  <また猛烈な風>

風が強くなってくる予報だった。朝は曇って穏やかだったけど10時半頃ついに西風が吹き出した。30分もしたら電線がヒューヒューと音を立て始め、大船は岸壁に舳先が当たるほど風に押され始めた。午後からムール貝を採りに出る予定でいたけどとてもじゃないが出られそうにない。12時までに残りを全部揃えて今日は終わりにした。


○1月14日(水)  <雪が降る>

今日の午前中に業者にムール貝を持っていく予定だったので、雪が降りしきる中9時に船に行く。雪と風に冷えた体も、ムール貝入りのネット袋を軽トラに積む作業を開始するとすぐに暖まった。1つずつ両手でかかえて持ち運び、15コ全部を積み終わる頃には息も絶え絶え(苦笑)。時間は短いけど海中から引き上げて軽トラに積む作業が一番体に堪える。

業者に荷を降ろし次回出る日を相談した。潮具合から今度は18日(日)に出ることにし、その日の夕方揃えた分を持ってくることに決定。


○1月18日(日)  <初氷>

また朝の潮が始まった。今日のソコリは8時半頃だ。本来ソコリの2時間か2時間半前に出たいところだけど、今日の場合その時刻はまだ暗いので7時まで待って出て行った。

船に行く途中路上の水たまりに氷が張っていた。初氷?。船の甲板の上は一面霜が降りて真っ白だった。夕べの冷え込みはきつかったみたい。かき始めるとマンガを持つても凍えて痛かった。

ムール貝採りは9時までやってどうにかマンガに23杯分をかいた。テンマの沈み込みが少ないからガラが多いようだ。貝が大きいのが救い。戻って揃え始めるとじきに挟みを持つ右手が凍えた。ときおり挟みを手放して手を振ってはまた作業をする。

風が出てこないのはありがたかった。陽が高くなるにつれ暖かくなってきて、午後には暑くさえ感じた。冬至からすでに一月近く経つので、陽射しが次第に強くなってきたみたい。今が一年で一番寒い時期だけど、春の兆しが日中の陽射しの中に感じられる。


○1月20日(火)  <潮がのろい>

ソコリは11時頃だけど、3時間も前の8時に出て行った。潮が速いうちにかいてきてなおかつその後の揃える時間もたくさん確保しようという作戦。

マンガを海底に降ろして最初の一杯目をかくと海底に濁りがでた。濁りはいつも通りだけど、いつも通りじゃないのが濁りが流れないこと。この時間下り潮が一番速いはずなのに濁りはその場で留まりゆっくりと拡散していった。マンガを入れてかけばかくほど濁りは濃く広がっていき、5・6回程でテンマの下の海底は見えなくなった。しかたなくテンマの位置を変えたり、錨を入れ直したりして近辺を移動する。そうやって9時までの1時間でマンガに15杯分をかく。随分手間ばかりかかっている。

苦労してかいたムール貝だけど相変わらずガラ(貝殻)と小さい貝が多かった。10時までやって26杯分かいたけど、テンマの沈み込みが少なくて残念だった。戻ってから16時過ぎまで揃えてカゴ一杯を残すのみだったけど、ネット袋に7つちょっとにしかならなかった。以前初めてマンガに26杯分かいた時には、ネットに13袋ほどあったから今日は随分少ない。


○1月21日(水)  <新しい元手>

今日は朝から曇っていたうえに遠くの景色は靄って見えなかった。鳶ヶ崎へ出てみるといつもヤマテ(目印)にしている火力発電所の煙突がまったく見えず困った。しかたなくもう一方のヤマテを頼りにおおよその位置に見当をつけてテンマを移動させた。あとは海底を竹棒でつっついて岩になっていないかどうかを確認してかく場所を決めた。

今日は昨日と違って潮が速くてかきやすかった。潮時は昨日とほぼ同じ頃だったのでその違いにビックリだ。しばらくするとFH丸がやってきた。テンマをみやって(寄せて)きて新しいマンガを見せてくれた。宮崎(吉良町)の貝屋さ(あさり漁師)から中古品を2つ、五千円で買ってきたそうだ。1つは柄が短いそうだけどムール貝採りには影響ない。

それを使ってかき始めるとみるみるうちにテンマにムール貝が山積みされた。新マンガの威力爆発だ。でも、一人なのだから二人でやってるうちと同じ量のムール貝を採る必要はない。うちの半分でも充分儲けになるのだけど、それではガマンならんらしい。採る量でもうちに勝って、うちよりたくさん儲けたいようだ。採れるムール貝の量にも限りがあるのだから、そんなにムキになって採らなくてもいいと思うんだけどなぁ。

それに彼はムール貝の他にカキもナマコもやっている。今月はきっと夏の一月よりたくさん儲けるかもね。


○1月22日(木)  <強烈な風>

晴れてはいるがまた強烈な風が吹いている。船着き場へ行くと冷たい西の風が吹きつけていて、これではムール貝を揃えるのも採るのも中止。

帰るついでにFH丸の様子を見に彼のテンマのある場所へ行くと、岸壁を風よけにしてテンマをつけて、ムール貝を揃えていた。岸壁の上から見下ろして様子を見ながら話したんだけど、風に飛ばされた砂埃が岸壁から彼と彼のテンマの上に吹き落ちていく。冷たすぎて手が痺れると彼は言っていたけど、見てるだけのこちらも風に吹かれて足が冷える。

昼の弁当も持ってきているそうで、今日は一日ここで揃えるつもりらしい。働き者でないゴーヘーには真似できないで〜す(^◇^;)。


■エピローグ

雪が降ったり強い風が吹いたりしてムール貝採りはお休みすることが多いです。ナマコ引きに比べたら出漁する日数が多いですが、業者にしてみれば毎日コンスタントに採ってきてほしいようです。しかしムリをしてなにか起こっても保証してくれるわけではありません。単に貝の調達先が変わるだけです。

海も自分の体も休ませることが必要です。休まずに働いていては仕事に使われているようなものですよね。

世はスローライフの時代。サラリーマンではないのだから、自分のペースでゆっくり自由に仕事をしたいものです。


■次回予告

Vol.60 「テンマ」 2004年2月7日(土)発行予定


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