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【Uターン漁師のゴーヘー通信】Vol.60 テンマ
                                    2004年2月7日発行
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■テンマ

テンマは伝馬船の略で、全国には昔から様々な大きさや用途の伝馬船があるようです。私たちにとってテンマは小舟のことなので、大きな帆を張った伝馬船などにはビックリです。

うちのテンマはFRP製で大きさは、長さが約7m、幅が約1.5mです。中央付近に左右1対のカンコが設けてあります。このテンマを陸に揚げると意外に大きく感じますが、海の上では逆にほんとに小さく感じます。風が吹いて少し波立ってくるとなんとも心許ないですし、タンカーの引き波が押し寄せて来た時、浅場にいて横波としてくらうと転覆するんじゃないかと思うほどです。

そんな心細いテンマですが、冬になると活躍します。例年はナマコ引きやナマコの引っかけ、浦の中への夜建て(よだて:夜のタテコミ)で活躍し、今年はムール貝採りで大活躍中です。

テンマは喫水部分が浅く大人のヒザ程度の水深があれば船底が当たることなく浮きます。その利点を活かし岸に近い水深1〜2m程度の場所に網をやったり、海底が岩場で浅く水深が不規則に変わる場所にナマコを求めて注意深く入っていったりします。ナマコの引っかけ漁はテンマならではの漁と言えます。

テンマには船外機をつけていますが、これが船の小ささと相まって小回りを利かせています。カレ網で使う大船はペラで後ろへ押しやった水流を舵で制御して船の方向を変えるので直接的ではありませんが、テンマの船外機は船外機の向きを変えることによってペラの向きが直に変わるので水を直接その方向へ押し出します。このため小回りが利きます。注意点は行きたい方向と逆向きに船外機の舵を向ける点です。言葉ではちょっとわかりづらいですが、船外機の舵を握るとすぐに理解できます。

ナマコ引きや引っかけの場合は限られた範囲内で漁を行うので、小回りが利くのは重要なポイントです。現在はFRP製で船が軽いことも小回りの助けになっています。

昔のテンマは木製で櫓漕ぎでした。木の船は重くそれは水の上でも重かったようです。その重いテンマを人力で動かしていたのですから、昔の漁師には頭が下がる思いです。今のテンマはFRP製で軽いですが、もちろん櫓漕ぎではありません。船外機のスロットルを片手で軽くひねるだけで波を蹴散らして走っていきます。便利で楽ちんなものです。

しかし櫓漕ぎにも利点はあります。なんといっても燃料代がかかりません。操船の点でもスピード以外は何一つ不自由がなく、むしろ船外機より自由度が高いくらいです。前進、後退はもとよりその場で回転さえできます。熟練の技のゆえにわかにはできませんが、船外機では決してマネのできない技です。

このような操船の自由度の高さゆえでしょうか、先日三重県のナマコ採り漁の様子を放送していたテレビニュースで、櫓漕ぎのテンマ船を見つけました。二人乗りのテンマの船外機の傍らに櫓がしつらえてあり、おじいさんがその櫓を操ってもう一人がナマコを採っていました。FRP製で軽くなったテンマはきっと櫓漕ぎで一層自由に動かせるのでしょう。

そのテレビニュースを見て、21世紀の世になって未だにテンマを櫓で漕いでいることに驚くと共に感動してしまいました。そして、テレビの中の見事な櫓捌きを見て、子供の頃ゴーヘー父が櫓を漕いでいた様子を思い出しました。私もやらせてもらいコツもわかりましたが、水を押しのけて櫓を動かす力が足りず、テンマは少ししか動きませんでした。

今ならもう少ししっかり動くかもしれませんが、うちのテンマでは、もう櫓を使うことができません。





■今週のゴーヘー

○1月24日(土)  <半分ガラ>

朝先日の残りを揃えて、10時半過ぎにかきに出た。今日はイワテ(北側)でかこうとして何カ所か探ってみたが良い場所が見つからず、また前回と同じ場所へ戻った。貝は大きいけどガラ(貝殻)が多い場所だ。岩も多い場所なんで海底をよく見てマンガを放り込む。ゴム手袋の指先に穴が開いているようで、染み込んできた水で手がしばれた。

12時45分頃までかいて戻ってきた。マンガに23杯分。一旦うちに帰り昼飯を食べてから船に戻り夕方まで揃えた。カゴに一杯分揃えると同じ量のガラが出る。やれやれ。


○1月25日(日)  <かけない>

西風が強かった。かけないほどじゃないんでテンマを出したけど、かく場所は昨日と同じ場所なんで、かいた半分はガラ。おまけに風のせいでかきづらくてマンガに18杯分しかとれなかった。全部そろえてもネットに6個分。少ない。


○1月26日(月)  <う〜ん>

朝ネット1つ分揃えて9時に業者へ持っていった。全部で6コ半しかない。昨日かいた量が少なかったんでしかたがない。かきに出る昼までの時間も空いてしまった。採れる量が少なくなってきて歯車がうまくかみ合わない感じ。

早めに昼飯を食べて12時前にかきに出た。ソコリ(干潮)は14時半過ぎだけど、今日は14時からカレ網の部会があるそうでそれまでに戻らなくちゃいけない。13時半までかいてマンガに21杯分だった。その後10分ほど鳶ヶ崎の岩場をテンマでうろついてムール貝が採れそうな場所を探したが、よい場所は見つからなかった。まだ捜し足りないから今度時間がある時にもう一度探索するつもり。

揃える方は16時までやってネットに2つだった。ガラ(貝殻)が多いから相変わらず時間がかかる。


○2月3日(火)  <空気の泡>

昨日は雨が降り、潮の動きも極端に悪い日だったのでお休みし、今日が2月最初のムール貝採り。

前回終了時に探りを入れていた場所へ行くと、海中が妙に濁っていて曇り空と相まって海底がよく見えない。ヤマテを頼りにかく位置を決めたけど、ヤマテの方向と風の吹いてくる方向が違うんで、錨綱を伸ばしたテンマが思った位置になかなか止まらない。何度も錨を入れ直す。

1度にマンガに入るムール貝の量が少なくてペースは上がらないまま時間だけが過ぎた。8時から10時までやってマンガに15杯分。しかも全体的に貝が小さい。帰ってきて揃え始めたら、どの貝も軽いことに気づいた。カラカラと音がするものが多い。身が入っていないようだ。沖側で採れる大きいムール貝とは比べようもなく、ネットに詰めた時の重さも軽く感じた。

そのネットを紐で結わえて大船から海中へ入れたら、ぷかりとネットごと浮かんでしまい驚いた。貝が痩せていて中に空気が入ってしまってるようだ。少しずつ沈んでいくと貝が口を開いて中の空気が出てくるため、ネットのあちこちから空気の泡が出てきた。参ったなぁ。


○2月4日(水)  <半分もない>

今日はかく前に新たな場所を探して放浪したのが失敗。

30分くらいあちこち探し回ってその揚げ句下り(南側)のガラが多い場所へ下がってかいた。その間FH丸はいつもの場所で順調にかき、うちが下りでかき始めてまだマンガに5ハイ分くらいの頃、テンマに満載して帰って行った。後で聞いた話では今日はネットに8つ分ほどあったらしい。うちは3つ分しか採れなかったから彼の半分もない。

しかし彼がかいていた場所をかき尽くしてしまうと、来年は今のマンガではまったくムール貝が採れなくなるだろう。まぁ、来年のことを考えていたら銭儲けなんかできないから、採れるうちに採り尽くすつもりなんだろな。うちもそうしよう。


○2月5日(木)  <30分早く>

昨日の失敗を踏まえて、今日は予定より30分早くテンマを出した。昨日FH丸がかいていたタコ瓶がある場所で、かくためだ。

鳶ヶ崎へ行きタコ瓶の場所へ陣取るとすぐにかき始めた。11月下旬の頃はここのムール貝は身が痩せていてカラカラと音がして軽かったけど、今はもうしっかりと身が詰まった音がしていた。かき始めはまだ潮が鈍かったけどそれも30分もしたら早くなり濁りがよく流れた。昨日の失敗が嘘のように順調。FH丸はカキを引きに行っているのだろうか、未だ姿を見せない。11時ちょっと前にタンカーの大きな引き波がやってきて海中が一気に濁り急にかきづらくなった。かいた量はマンガ26杯分と充分なんで引き上げてきた。

あとは夕方までひたすら揃えるだけだったけど、14頃から曇って急に冷えてきてその上雨がぱらついてきた。15時半にはそれが雪に変わり16時には吹雪の様相となりガマンの限界に達する。慌てて片づけて揃え終わったネット4つ分のムール貝を軽トラに積んで逃げるように業者へ持っていった。


○2月6日(金)  <順調>

昨日の残りを朝揃えて、9時半過ぎにテンマを出した。ソコリは12時過ぎなんで時間はまだたっぷりある。

今日もまたタコ瓶の場所へ陣取りかき始めるとじきにFH丸がやってきた。テンマをミヤって(近づけて)きてちょっと話した後、迷いながら少しタアカ(岸側)で錨を降ろした。自分がやりたい場所を先取りされたので困っている様子。それから帰るまで何度も「今日はあかん」と呼びかけてきてた。しかし、帰る時にまたミヤって来たんでかいた量を見たら、うちと遜色ないくらいの量だった。そう言ってあげたら自分でもそれを納得した様子でなにも返事がなかった。でも、明日はうちより早くこの場所へ来るだろな。

戻ってからまた夕方まで揃えた。今日は雪が降ってこなかったけど西風が強く吹いていて、やっぱり寒かった。昨日も今日も、我ながらよく風邪をひかないものだと感心する。業者へはネット7つを持っていった。


■エピローグ

ムール貝が終わりに近づいています。ムール貝自体はまだ鳶ヶ崎にはいっぱいあるのですが、どれも岩場に付着していて今使っているマンガでは採ることができません。岩場の間の砂が溜まった場所にあるムール貝を捜せばまだあると思いますが、それらは採りづらく効率が悪いです。

これまで採った量は全体からみればおそらくほんの10%程度といったところでしょう。潮がよく干るようになれば海に入って岩場のムール貝を採ることもできますが、それではコロニー全体に与えるダメージが大きくなりそうです。今後を考えるとなるべくそれは避けたいです。


ムール貝が売り物になる大きさまで成長するのに2年かかるようなので、今年採った場所では来年は採れないことになります。元々砂地が少ない岩場なのでこれは仕方ないです。そこで、揃えて残った小さいヤツを他の砂地の場所へ持っていって放流し成長を待つ計画を立案中。うまく成長すれば再来年に採れるかも(^^)v。


■次回予告

Vol.61 「仲間で仕事」 2004年2月21日(土)発行予定


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