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【Uターン漁師のゴーヘー通信】Vol.62 ムール貝
                                     2004年3月6日発行
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■ムール貝

ムール貝は和名をムラサキイガイといいます。村では子供の頃大人も皆カラス貝と呼んでいましたが、たぶん貝の色が黒いことからそう呼んでいたのでしょう。実際にはカラス貝という名前の貝が別にあります。淡水の貝で「漁夫の利」の故事で登場する貝が確かカラス貝だったと思います。

ムール貝に話を戻しましょう。

ムール貝は元々はヨーロッパ原産の二枚貝だそうですが、日本には大正時代にすでに各地の海岸でみられたそうです。おそらく船に付着してはるばる日本までやってきたのでしょう。今でもタンカーのバラスト水に混じってやってきてるようです。日本に定着して90年余り。今ではすっかり日本の海岸の風景として馴染んでいます。

ムール貝をよく見かける場所は、港の岸壁下、防波堤やテトラポットの下側、磯の波に見え隠れする部分などでしょう。港では岸壁から海中に垂らしたロープやハシゴなどに付着していたり、長期間繋留された船の喫水付近に付着していたりします。カレ網に引っかかって海底からあがってくることもよくあるので、波で洗われる場所以外でも繁殖・成長ができるようです。これらの場所の共通点は海底の場合も含めてどこも「海水がよく動くところ」です。そしてどこも黒々とした集団を形成しやや不気味です。

ムール貝は貝の中から「ひげ」と呼ばれるひも状のものを出して岸壁や岩・他のムール貝等に張り付き、他の二枚貝には不都合な「潮のよく動く」、それでいて新鮮な海水と養分がたくさん流れてくる場所を住処としているようです。

この冬ムール貝を採り始める前に疑問が2つありました。1つは「何年でどの程度の大きさになるか」でした。これは来年以降も採ることを考えた場合、どの程度の大きさ(小ささ)のものまで採って良いか、に繋がる疑問です。成長度合いが鈍いようなら大きくなるまでに時間がかかるので、あまり小さいモノを採ると来年以降の漁にダメージが残ります。

次の疑問が「いつ産卵するのか」でした。アサリのように梅雨の頃産卵するのか、別な時期に産卵するのか。産卵時期が近づいたら次代を残すため採らない方が良いので、万一冬に産卵するようだと今冬の漁は早々に切り上げることになるからです。

ムール貝を採り始めた頃は、採ることと、ガラ(貝殻と海藻)と貝を選ることに精一杯で上記の疑問は封じたままでした。しかし作業に慣れ、目も慣れてくると違ったものが見えてきました。採ったムール貝をよく見ると上記2つの疑問を上回る現象が見つかったのです。

カレイでもコチでもクロダイでも、はたまた、ナマコでもアサリでも、大きさごとに揃えると大抵3・4種類に分けることができ、それは生まれ年が同じことを意味しています。ところがムール貝は貝長15cmくらいの巨大な物から小指のツメの半分くらいの大きさのものまでバラエティーに富んでいたのです。サイズ毎に分けたらカゴ5つでは足りそうにないのです。これは成長がとても遅いせいかもしれないと大変心配になりました。

そんな年の瀬も押し迫ったある日、ムール貝を買ってくれてる業者の社長が「ムール貝が胞子を出してる」ところを教えてくれました。見ると水槽の中で一部のムール貝が白い液体をはき出していました。「産卵は冬!」となり年明けのスケジュールが一気に白紙になりました。社長にもそれを話すと「いや年中吐いてる」との回答!?。どうやら大潮毎に貝の内のどれかが精子や卵子を吐いているらしいと判明しました。

ここで先ほどのバラエティーに富んだサイズの謎が解けました。年明け以降もムール貝採りができます。

成長速度の方は社長の同業者の別な社長が教えてくれました。1年で4cm程度、2年で8cmくらいに成長するそうです。かなり早いです。

どうやらムール貝の生き残り戦略は、二枚貝にとって条件の悪い潮の流れの速い場所で、速い流れに乗って流れてくるたくさんの栄養分を吸収して早く成長し、かつ年に何度も産卵・放精することにより大量の子孫を残すというもののようです。

道理であちこちの岸壁で黒々としたコロニーをたくさん見かけるわけですね。


■今週のゴーヘー

○2月21日(土)  <泡>

9時ちょっと過ぎにうちを出てテンマで鳶ヶ崎へ行く。1週間ぶり&病み上がりのためマンガが重かった。

今日はとても暖かく桜が咲く頃のような陽気でイワテ(北側)のヤマテ(目印)が霞んで見えず、下り(南側)のヤマテだけを頼りに場所を決め、なんとか先週やっていた場所でテンマを停めた。ムール貝のほとんどはもう岩の上にしかなく、やや深めの水深に苦労しながら丹念にマンガでムール貝をこそげ取る。
潮の流れが速く30分ほど経たら水深も手頃な深さになってきてやりやすくなった。

北西の弱い風が北寄りに変わり次いで凪いだ後、少しイワテ沖へ移動した時ガラだまりの上にムール貝のコロニーを見つけかき始めた。マンガで引くと濁りの中から小さな空気の泡が盛んに立ち上ってきた。不思議に思いつつマンガを引いていたら、ふと泡の出所がわかった。おそらくムール貝に付着している海藻:アラメが作った酸素が、マンガでかかれることによりアラメ表面から剥がれてくるのだろう。大量のアラメは揃える時にはゴミでしかないが、海の中では大切な酸素供給源なんだと感心した。

ムール貝はどれもずしりと重かった。身がしっかり入っているようだ。


○2月24日(火)  <コウナゴの準備>

船着き場へ行くと軽トラがたくさん停まっていてあちこちで漁師達がせわしなく行き交っていた。去年より1週間くらい遅いが、いよいよコウナゴ漁の準備が始まったようだ。網を引く船、獲れたコウナゴを市場へ運ぶ船など数隻、総勢十数名が1つのグループになって漁をするので、網やロープやカゴなど準備しなくちゃいけないものがたくさんある。去年は随分ともうかったようだが、今年はどうだろうか。いずれにせよ、うちは参加しないから関係ないけど。

今日は11時半から13時半近くまでやってマンガに約20杯分かいた。水深は腰上くらいまでしかなかった。随分と潮が干るようになった。


○2月25日(水)  <打ちあげ?>

朝、昨日の残りを揃えて9時半頃業者へ持っていった。荷を降ろして社長とちょっと話した時、今週でうちがムール貝採りを止めるから、止めたら打ち上げでもしよう、という話が出た。社長の所はフグも扱っているんでフグ刺しがいいですね〜とか言って。まっ、冗談だけどね〜(笑)。

ちょっと早い昼飯を食べて11時半過ぎに出た。昨日と同じ場所へ行く。13時半頃潮がのろんだんで一息入れてテンマの上から海底の写真を撮っていたら、風が北から東そして南へと変わった。急だったのでそのまま強く吹いてくるかと心配になり慌てて帰ってきた。実際には風は強くならなかったんで心配は杞憂に終わったんだけど、下げ潮がゆるくなった時に反対向きのマゼ(南風)が吹いてきたんじゃ潮が止まってしまうから、やはり帰ってきて正解だったろう。


○2月26日(木)  <フグ刺し♪>

朝いつものようにムール貝を業者へ持っていくと、社長が「今夜予定ある?」と聞いてきた。特別ないと答えると「フグを用意したから、夕方5時頃電話する」とのことだった。お、本当に打ちあげか?。フグ刺しを楽しみに、午後も採りに出て揃え16時半にあがってきた。着替えて電話を待っていると17時半にようやくかかってきた。

「用意したんで取りに来て」と社長が言う。取りに来てとはどういうことか?とにかく行くと、皿一杯のフグ刺しとアラと皮がパックされ発泡スチロールの箱に入れられたものを渡された。打ち上げの一席はなかったけど、セットで出荷しているものを特別に1つ用意してくれたらしい(18,000円相当)。もちろん天然物のフグ。帰って早速フグ刺しをいただいた。フグ刺し、サイコー♪。明日はふぐちりだ〜。


○2月27日(金)  <正体がばれる?>

朝からムール貝を揃えてお昼少し前に持っていった。これで最後ということで実に名残惜しい。社長と少し話してたら、パソコンについて聞かれた。たぶん普通の人より詳しいと思うと答えたら、社長の所もホームページを作ってネット通販をやっているそうで、わからないところを聞きたいとのことだった。私にわかることなら、と返事をしておいた。

なんでも奥さんが「あの人、普通の漁師とはちょっと違う」(注:変な意味とちがうよ〜)と言っていたそうで、聞いてみることになったらしい。漁師になって4年目だけど、まだ漁師っぽくないのかな?(^^ゞ。

さて、ムール貝採りも今日でお終い。今年の冬は思わぬ漁ができ思わぬ収入があって本当にラッキーだった。


○3月2日(火)  <初カレ網>

今年最初のカレ網に出た。

朝船を出すといきなりリモコンの舵が利かなくてすぐに戻った。またケーブルが断線したのかと思ったけど、ケーブルを交換してまだ半年あまりだから傷んだとは考えにくい。ふとリモコンを見ると「リモコンスイッチ」が「オフ」になっていた。「オン」にしたら・・・もちろんOK。やれやれ。

アイバ尻へ行って二クリ目をやった時、網をやった跡でボラが少し跳んだ。去年の今頃大谷でボラがかかって参ったことがあった、その記憶がふと頭をよぎった。網を3分の1程度揚げると不安的中。ボラが網にびっしりとかかってキリキリ舞していた。それからはもう船上は戦場状態。網目に挟まったボラは網糸をちぎって取りだし、袋にうまく収まっているヤツは急いで入り口を捜して取り出す。網目から抜けて甲板に「ゴトン」と音を立てて落ちるボラ、バタバタと体全体で跳ねているボラ、ジッとして息も絶え絶えなボラ、ボラ、ボラ。

次から次へとカンコへ放り込むと、白い腹を上に向けてアップアップしているものが目立つ。そのうちカンコがボラでいっぱいになりじきに酸欠で死にそうな予感。急いで2つめのカンコのヒを抜いて水を入れ、新たに網からはずしたボラをそちらに入れた。

ゴーヘー父ははずしたボラを何匹も海に投げ込んでいたが、ゴーヘーはできるだけカンコに入れた。安いけどせっかくかかった魚だし、網がボロボロになった元を少しでも取りたいしね。水揚げ時に数を数えたら127本で、クイリョウに3本残したので全部で130本だ。ゴーヘー父が捨てた分も合わせれば140本くらいはあったかも。やれやれ。


○3月4日(木)  <急変>

朝は穏やかだったが、風が吹いてくるような空の気配だった。吹いたら戻ってくればいいからと言いながら船を出す。3月に入ってから朝の冷え込みが2月初旬並みで、海上を走るとかなり寒い。今日の空も良く晴れて冷え込んだ。

吉田港前で最初の網をやった。手足がかなり冷えて指が動かしづらい。付近一帯をエイ○丸と競いながら網をやる。8時頃には昇った陽の光が力強くなり寒さも緩んできた。風が吹きかけては凪いでいくので今日一日このままかとさえ思ったが、その頃すでに西の空や三河山地の上には風雲が出てきていた。

8時半頃網を揚げ始める時にわかに北西の風が強くなり始めた。5分と経たないうちに風は強烈に吹きつけ風速8mくらいはあっただろうか。急いで網を揚げ始めたらこういう時に限ってカレイがよくかかっているもので、特大カレイを含めて全部で9枚もかかっていた。早く帰りたい気持ちとせっかくの大漁だから続けて網をやりたい気持ちが交錯する。が、岸と海苔ソダがすぐ近くにも関わらず船を揺らす波が岸側から来る状況では、一刻も早く帰った方が良い。

慌ててガランガランを引き上げて走り出すとブリッジを越えて波が被ってきた。一色前から沖を目指して海苔枠の間へ進むと、海苔枠で波が押さえられているはずなのに高い横波がやってきた。海苔枠を過ぎると1m前後の横波が次々と押し寄せてきて、船は何度も大きく傾きペラが空転した。後ろ向きで座っているゴーヘーは、浦前へ来るまで右足を船縁まで伸ばして踏ん張り、両手でものにしがみついていた。久々に生きた心地がしなかった。


○3月5日(金)  <依頼>

4クラ目、ガランガランの軸からウデが外れた。溶接が甘くて剥がれたようだ。まだ作ったばかりで使い始めて3日目で壊れては不良品だ。鍛冶屋のオヤジも半端な仕事をしてくれたもんだ。網を揚げると急いで帰ってきて倉庫から古いガランガランを持ち出してきて交換し、またでかけて13時半までやってきた。

午前中にムール貝の業者の社長から携帯に電話があったようで伝言が残っていた。お昼にそれに気づいて電話すると、ムール貝が足りないからネットに2つでも3つでもいいから採ってきて欲しいとのことだった。値段に少し色も付けると言う。ムール貝を納めている漁師は他にもあってそちらの方が量も多いはずだけど、あえてアルバイトでムール貝採りをしたうちに依頼してきたことが嬉しい。ゴーヘー父と相談した結果明日土曜日に採りに出てみることになり社長にはそう伝えた。ただし明日は低気圧が通過するので強風になるみたいだから、出られるかどうか未定。


■エピローグ

ムール貝についてはまだ書き足りないことがありますが、それは今回我々が採った場所に関するものなので、また別な機会に譲りたいと思います。

毎日ただボンヤリと海や空を眺め、獲れる魚や貝やその他のものを眺めているだけですが、時々フッと「あっ、そうか、これはこういう理由か!」と気づくことがあります。あまりに小さいことでメルマガで書くには及ばないことかもしれませんが、無性に書きたくなることもあります。すぐにメモ書きしておき、頭の中で膨らませたりしぼめたりして楽しんでいます(暇)。

次回のお題もそんな小さな事柄ですが、漁師が海の上で何を見ているかをその一端をお伝えします。


■次回予告

Vol.63 「風雲」 2004年3月20日(土)発行予定


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