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【Uターン漁師のゴーヘー通信】Vol.66 衝突事故
                                     2004年5月1日発行
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■衝突事故

2001年の4月中旬のある日、いつものように梶島へ行き漁をしていました。普段通りの漁でしたがいつもと違うのは、島の北側に幡豆の大型漁船がいたことです。その船はガニカゴかメジロカゴをやるか揚げるかしていて、ゆっくりと東西に船を動かしていました。かなり長いロープでカゴを海に入れているようで、始めと終わりを示すボンデンが見あたりません。途中の浮けももちろんありません。こういう船には近寄らないのが一番なのでその船から離れた島のすぐそばで網をやっていました。

こちらが二クラやり終えた頃大型漁船は遙か西の方へ移動して小さく見えていました。梶島付近でのカゴ揚げを終えたのだろうと判断し、赤灯台の北側へ出て網をやりました。ふと西を見ると西に向かっていた大型漁船がなぜかこちら向きになっています。嫌な予感がしました。

ゴーヘー父は普段よりガランガランを引く時間を短くして、網を揚げ始めました。大型漁船は一定の速度でゆっくりとですがどんどん近づいてきます。網を半分まで手繰った段階で大型漁船の進行方向から判断して、うちの網がカゴのロープの上をまたいでいる事がほぼ確実となりました。大型漁船もこちらの様子が見えていることでしょうから船足を落として待ってくれることを期待しながら、とにかく急いで網を手繰りました。

大型漁船は右後方からやってきてうちの網のボンデンのそばを通過しました。向こうにはうちの網が彼らのロープをまたいでいることがわかっているはずです。こちらもゴーヘー父が懸命に大声を張り上げて止まってくれるようにアピールしましたが、なぜか大型漁船は停止しません。

ついに彼らのロープでうちの網が持ち上がりました。それでもなお大型漁船は止まりません。まるで「網なんか引きちぎってやる!」と言わんばかりです。網全体がはロープに引きずられ始めました。このままでは大型漁船の右舷側にあるうちの網がかれらの船のペラに絡まってしまいます。両船はハの字型に位置しその距離はもう数mしか離れていません。網を手繰っていた手をゆるめて網を伸ばし、引きずられるのを避けつつこちらの船を進めて、なおも止まらない大型漁船の前を一か八かで横切ることにしました。

うちの船は大型漁船の前に出ました。次の瞬間大型漁船がうちの船の右から突っ込んできました。大型漁船の舳先が頭上まで来てその下をゴーヘー父が押さえ右舷に直接当たるのを回避しました。そのままこちらの船がその舳先を回り込もうとしましたが、長い舳先がこちらの船のブリッジの屋根にあたり屋根が剥がれました。そうなってようやく大型漁船はゴスタンし、舳先を廻って難を逃れました。

くしゃくしゃになった網を船上でほどきながら、相手に文句を言いに行こうとゴーヘー父に言いましたが聞き入れてもらえませんでした。たぶん道理の通じる相手ではないと判断したのでしょう。文句を言いに言ったら今度はほんとに船を沈められてしまうかもしれません。海の上では目撃者がいないからやられ・逃げられたらそれでお終いです。

船に乗ってまだ1年以内の時で、海のルールも漁師のルールもわからない時だったので、この衝突は悔しくて仕方がなかったです。それで地元の海上保安庁宛にメールでこの件を報告したところ、翌日漁業組合を通じて連絡がありました。事情聴取をしたいから来て欲しいということで呼び出されたのです。ゴーヘー父は「(村の)他の漁師の笑いもんだ」と言ってへそを曲げていましたが、「他の漁師が助けてくれるわけじゃない。笑いてえヤツには笑わせておけばいい」とゴーヘーは言って呼び出しに応じました。

ゴーヘーの感覚では「大型トラックと軽トラックの交差点での衝突事故で軽トラックの方が被害大」だったのですが、事情聴取の状況を判断すると「操業中の『事故』で過失割合は50対50」な感じでした。衝突時は慌てていたため相手船の船名も覚えておらず、船の形状・特徴だけしか係官に伝えることができませんでした。

数日後連絡があり相手船が見つかったとのことでした。保安庁の捜査力には驚きましたが、係官はもっと驚いたようです。はっきりとは言いませんでしたが、相手の漁師はとんでもなく我の強い人だったらしく、自分は悪くないの一点張りだったようです。まぁ、衝突時の状況からある程度予想できたことだったので驚きもしませんでした。衝突時、相手漁師達は終始はっきりとこちらを認識していました。ハの字型に近づいた時にはニヤニヤしてるようにも見えました。カゴを繋ぐロープでこちらの網を切れると本気で思っていたのでしょう。大型漁船が衝突まで停止しなかったことが、その「悪意」を如実に語っていると思います。

海難審判を行えば互いに罰金刑だったかもしれません。相手の態度が気に入らなかったゴーヘーはハチの一刺しでもしたかったのですが、事を荒げたくないゴーヘー父の意向に従い事故報告のみに留めました。

係官が最後に言った「漁師にもいろんなヤツがおるで」という言葉が耳に残りました。





■今週のゴーヘー

○4月17日(土)  <油>

日中の陽射しが強くなってきたので、ムール貝を揃えている最中はできるだけ貝のうえに覆いをかけている。揃え終わったムール貝はカゴに入れテンマから海中へ吊しておきたいが、先月11日に港内に油の垂れ流しがあって以来海面から油が消えず入れられなかった。最近ようやく海面から油が消えたようなので、久しぶりにテンマから吊しておいた。

ふと顔を上げてテンマの周りの海面を見たら薄くまだらに油が見えた。慌ててカゴを引き上げムール貝に油が付いていないか臭いを確認した。幸い臭わず油は極少量で薄く漂っていただけのようだ。それにしても1ヶ月以上を経て未だに油が漂っているのには驚いた。たぶん海中に垂れているロープに染み込んでいて、潮の高さの加減でしみ出してくるのだろう。参るなぁ。


○4月18日(日)  <まごまご>

FH丸はお休みだった。孫がやってきたので連れて遊びに出ていたそうだ。FH丸に限らず孫がやってくる(正確には息子・娘が孫を連れてやってくる)とみんな漁をお休みする。後日、その日の話を「孫が来て〜」とか「孫が〜」とか、とにかく「孫が〜、孫が〜」と話すので、うろたえる『まごまご』をひっかけてやっかみ半分・うらやましさ半分で「まごまご言っとる」と揶揄する。今日のFH丸も「まごまご」だったわけだ。


○4月20日(火)  <午後から強風>

低気圧が発達しながら日本海を北海道方面へ抜け、昨日は小雨交じりのマゼが吹き今日は午前中西の風でソコリ(干潮)から北西の風が吹き出した。北西の風は強烈でお昼に風速11mを記録したようだ。ムール採りをソコリ前に切り上げてきて良かった。


○4月21日(水)  <風が廻る>

昨日の風がまだ残っていてカレ網はお休みだった。それで9時半頃ゴーヘー父と二人でムール貝を採りに出た。昨日の場所で錨を下ろし沖の白波を眺めながら採る。いつの間にか風もやんできて良い天気になった。

1時間ほど経った頃だろうか、にわかに風が東へ変わった。ゆるい風なのでテンマはゆっくりと西へ流され、採る場所も大きく変わってしまった。採れる貝のサイズがちょっと小さくなったので東風を考慮して錨を入れ直したが、その後風は次第に南へ移動していきその度錨を入れ直した。風が廻った恰好だ。11時過ぎには完全にマゼに変わったので、わずか1時間の間に180度以上風向きが変わったことになる。また低気圧がやってくるのだろうか。


○4月22日(木)  <30分>

今日はFH丸が来なかった。どうしたんだろうと思っていたら、ゴーヘーが採り終えてムール貝に付着した海草を取っている時にやってきた。昨夜急に下痢をして寝ていたそうだ。昨日ネット4つ売ってきてまだ2つ残してあるそうで、体調が悪い中採りに出てこなくてもいいと思うだけどなぁ。

彼は下りで採り始めてすぐに場所を変え、岬を回った湾側へ移動して採っていた。ゴーヘーが海草を取り終えて帰る時FH丸もムールを山積みにして走り出した。わずか30分で今日のゴーヘーより多く採ってしまった。きっと良い場所に当たったんだろう。体調悪くても上手な人にはかなわない。

○4月23日(金)  <前線通過>

日本海を低気圧が東へ移動し前線が通過したため、朝から雨が降った。10時頃には止んだけど一時は強く打ち付けていた。風は北西の風に変わりカレ網に出ていたゴーヘー父もうちへ帰ってきたので、11時頃一緒にムール貝を採りに出た。

12時を廻った頃から風は強くなってきて波も大きくなった。一度バランスを崩してテンマの上でよろけて海に落ちそうになった。12時半頃さすがに嫌になって帰ってきた。昼飯を食べた後揃えたらネットに1つと4分の1くらいしかなかった。


○4月25日(日)  <悪ガキ>

午後採ってきたムールを揃えていたら、札場に遊んびにきた子供に気づいた。3人組で手に手にモカギを持っていて中の一人が水槽にモカギを突っ込んで遊びだした。魚をひっかけて取り出そうとしているようだったので、テンマから怒鳴ったけど聞こえない様子。まんまと引っかけるのに成功して持って行こうとしたら魚が暴れて地面に落ちた。落としたガキはそのまま逃げたけど、太ったガキが拾ったのでもう一度「魚、持って行くな!」と怒鳴ると今度は聞こえた様子でこちらを見た。すかさず「返しとけ!」と怒鳴るとすごすごと水槽に返しに行った。

見た感じ小学校高学年くらいだ。あの歳で道具をこしらえて人のものを盗るなんて、親の顔がみたい。が、「子は親の鏡」というから、きっと親も人の目を盗んで悪さをする人なんだろなぁ。


○4月26(月)  <3つか4つ>

ムールを採っていたらFH丸がみやって(船を寄せて)きた。「採れんな〜、こいじゃ、3つか4つだがや」と言う。普段はどれだけ採ってんだ〜?と思いながら「俺なんか1つちょっとだが」と答えると両手で大きさを示しながら「こんなおっきなヤツばっか、とっとるもんだいだがや」と返ってきた。「そんなもんが、いくらもあらすか」と返事したけど、こちらの様子を伺いついでにたくさん採ったことを自慢されたみたいで気分が悪い。

「小さくてもたくさん採ったモノがエライ」なんだろなぁ。


○4月30(金)  <15歳>

ムールも終わって久しぶりにカレ網に出た。3月初めに3日ほど出たっきりだから2ヶ月近く経っている。

で、朝寒くて凍えてしまった。東の空のほのかな明るさから次第に空全体が明るくなるにつれて、寒さが増してきて夜明け直前がやはり一番寒かった。油断してセーターを着ていかなかったのが敗因だ。久しぶりだから海の上の気温の間隔が鈍っていた。

久しぶりと言えばもう一つ変化があった。4月からHA丸に若い衆が一人乗っている。これまでも時々札場で見かけたのだが沖で船の上にいるのは初めて見た。若い衆は彼の息子でこの3月に中学校を卒業し、カレ網が始まると同時に船にも乗るようになった。最初見た時は小学生かと思ったほど幼い感じの子だ。船上での様子はHA丸を手伝ったり手伝わなかったりで、まだ遊び半分なようだ。携帯ゲームを持ってきて漁の最中にもゲームをしてるような状態らしい(苦笑)。昔と違って15・6歳で働くような子はほとんどいないし、今まで夏休みなどで船に乗っていたわけでもないから、いきなり船に乗って仕事するのはムリだろなぁ。自分が仕事をする実感もわかないだろな。


■エピローグ

今回の発行は予定より1日遅れてしまい申し訳ありません。前日になっても一文字も書けず、今まで1回も配信が遅れたことがなかっただけに残念です。

次回からまたペースを守って発行を続けたいです。


■次回予告

Vol.67 「アジモ」 2004年5月15日(土)発行予定


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