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【Uターン漁師のゴーヘー通信】Vol.75 台風
                           2004年9月4日発行
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■台風

先日台風16号が日本に上陸しました。8月だけでもこれで3つめ、今年に入っ
てからだと6つ目になるそうです。気象庁が統計を取り始めて以来90年、9
3年の6個と並ぶ最多上陸記録で、台風シーズンがまだこれから始まることを
考えると今年は最多上陸記録を更新するかもしれません。8月のうちの水揚げ
が過去最低だったかもしれないのと好対照の記録ですが、うちにとってどちら
も嬉しくない記録に違いありません。

テレビの天気予報で「台風発生」の報を聞くと画面に映った天気図に釘付けで
す。発生した場所はどこか、中心付近の気圧はいくらか、今後どの方向に進み
そうか、を聞き漏らすことのないよう注意深く説明に耳を傾けます。例年の夏
台風は迷走するケースが多いですが、今年は太平洋高気圧の勢力が強かったの
で高気圧の縁を回るようにして台風がやってきました。発生した台風がそのコー
スに乗るかどうかが心配でした。

台風発生からおよそ3日で下波(うねり)が現れます。下波は三河湾より伊勢
湾の方が顕著に現れ、最初はピークが低くピーク間が長い下波です。台風が早
くから発達すると下波もピークがやや高く大きなものになるので、「今度の台
風は大きそうだ」と理解します。16号台風の時にはまさにそういう下波でし
た。下波があると海中の網も煽られ漁に影響するため、カレ網では歓迎されま
せん。

台風が日本に近づき風が強くなってくると否応なく沖(漁)はお休みです。台
風の風に備え船のロープに弱った部分がないか点検したり、錨やロープを追加
したりします。この時台風の大きさややってくる方向から風の強さと向きを予
想して補強します。16号台風は大きかったので船のロープ張りも念入りに行
われ、中には対岸の岸壁にロープを渡している船もありました。

こうした台風への備えは漁港によって様々で、他の漁港では船を陸にあげてロー
プで固定したり、避難港に船を迂回して保全したりするケースもあるようです。
幸いうちの漁港ではそこまでする必要がありません。これは漁港の地理的条件
が良いためです。

村の漁港は知多半島東部に位置し三方を40〜50m程度の高さの山に囲まれ
た天然の入り江で、港口を東北東に向けているため台風が接近した時の最も強
烈な南東からの風や波が直接港の中に入ってきません。あの伊勢湾台風の時で
さえ大きな被害のなかった知多半島一の天然の良港です。それゆえ昔は台風時
に近隣の村々の船が避難してきたそうです。

もっとも良港でなかったがゆえに近隣の村々では漁港の整備が進み高度成長期
をまさにそのまま体現しました。今でも活気に満ちています。一方こちらは天
然の良港ゆえ周辺漁港より港の整備が遅れその後の発展に取り残されてしまっ
た面があります。昭和30年代までは近隣の村々の漁船が魚を水揚げするため
に寄港して、市場も漁港も活気に満ちていたそうですが、40年代、50年代
と進むにつれて活気が失われ、今では一部の岸壁は崩れかかり台風で飛ばされ
た市場の壁はいつ修繕されるか漁師の間の話にすら上りません。

台風が来るたびに「この村の漁師で良かった」と思いますが、台風後に飛ばさ
れずに残った市場の屋根を確認して安堵するのは、なんとなく寂しいです。


■今週のゴーヘー

○8月22日(日)  <バッテリーあがる>

4時ちょっと過ぎ船に行きゴーヘー父がエンジンを始動するもかからず。バッ
テリーの電圧が22ボルトしかなく(本来は24ボルト)、いつの間にかバッ
テリーがあがったらしい。エンジンがかからなくてはどうすることもできない
ので一旦うちに帰り、5時半頃電気屋さんへ電話して来てもらった。日曜の朝
だというのに気の毒なことだ。電気屋さんの話ではバッテリーの寿命のため3
連休で放電が著しかったかもしれないとのことだったが、ほんの1週間前もお
盆休みで3連休だったけどその時は大丈夫だった。今回は船内のどこかで灯り
がついていただけじゃないのか!?

ようやくエンジンがかかり船を出した。この時刻では西浦は諦め三河へ行く。
すでに一クラ目を揚げ終わった人が無線で「網がドロドロに汚れてまるで田ん
ぼの中で網をやったみたいだがや」と話していた。実際やってみるとその通り。
二クラは諦めて梶島へ走る。

梶島ではいつものように島西や水被り、長瀬で網をやった。今日は珍しくカラ
が少なく(2度のみ)わりにどこでやってもコチやカレイがかかった。特に水
かぶりで中ゴチ3本、長瀬から西側でコチが大ゴチ1本、中ゴチ3本、カレイ
15・6枚がかかった。大漁とまではいかないがお盆明けでは最も良い漁だっ
た。


○8月23日(月)  <風でお休み>

強い東風が吹いて沖(漁)は休み。明日は第4火曜でお休みだし、台風16・
17号が北上してくる今週後半は何日沖に出られるかわからない。

今月の水揚げ高はまだ例年の8月の6割弱しかない。この調子ではここ十数年
で最低の水揚げ高になりそう。8月に稼げなかったらほかに稼ぐ月なんてない
のに。


○8月25日(水)  <逆バリ>

台風17号は西へ逸れていった。16号はゆっくりと北上中でまだ影響はない。
この調子なら金曜日まで沖(漁)に出られそうだ。

朝蒲郡まで走った。二クラやってカレイ4枚と小本ガニ(ワタリガニ)2つの
み。梶島へ帰ってきて長瀬・水かぶり・桟橋前で計4クラやったけど、小コチ
2本、小カレイ1枚、小本ガニ6つだけ。すでに9時を回っていた。北西の風
が強くて三河組は帰ったようだった。しかたなく尾張を目指し布土(ふっと)
まで走った。

布土では一クラ目でコチが3本かかっただけで続く二クラはカラ続き。ガニが
5〜6パイずつかかったんで時間ばかりかかった。11時半に古布(こう)ま
で下がってきて一クラ目でコチ3本、二クラ目はカラでこれまたどちらもガニ
が数ハイずつかかった。は〜。

夕方札場へ行くと珍しくショ○トク丸が岸壁に横付けしていた。またクロダイ
で満船か?、と冗談で思ったらホントだった。すでにハゴが一水槽活かしてあ
りクロダイを入れたカゴがいくつもあった。この大漁のせいか、今日のクロダ
イの相場は7月並に安かった。逆に漁が少ないコチやカレイの高値が目立った。
おかげで少ない漁でもそこそこの水揚げ高になった。

うちの今の漁はクロダイを狙っていないから完全に「逆バリ」。「逆バリ」な
ので少し漁があればすぐにクロダイを上回る水揚げ高になる。ただし、普段は
漁が少ないからけっこうつらい。


○8月26日(木)  <50%以上>

朝東風が吹いていたうえに船を出した直後に雨が降り出した。台風16号はま
だはるか南の海上なのにもう影響が出てきたのだろうか。時刻はすでに4時4
5分を過ぎていたが、東風は更に強くなると判断し西浦へ向かう。

小野浦で一クラ目をやると大グロが1枚かかった。左目を痛めているから値段
は安いだろな。二クラ目は上野間でやった。カラだった。三クラ目は大谷の崖
の沖でやった。これもカラだった。他の船が続けてやるので見習って4クラ目
をやるとようやく小コチが1本とタコが3バイかかってきた。タ○エイ丸が沖
の瀬に向かったので追いかけてそこで二クラやってどちらもカラ。朝からカラ
ばかりだ。

9時、空港島の北へ移動した。12日に大漁だったところでお昼まで勝負する
ことにしたが、一クラにせいぜい小コチ1本かかれば良い方。5クラやって小
コチ3本で二クラもカラだった。11時20分とうとう嫌になって帰ってきた。
結局11クラやって6クラもカラだった。カラ率50%以上。カラじゃないと
きもせいぜい魚が1匹ではろくな水揚げにならない。なんだか日増しに魚が獲
れなくなるようだ。


○8月27日(金)  <台風カモフラージュ>

伊勢湾は昨日から下波(うねり)がひどく今日はもっとひどいと思われ、つい
でに風も出てくるんじゃないかと心配して、朝誰も船を出さなかった。我々の
心配をあざ笑うかのように天候は穏やかで三河湾の下波は目立たず、ヒ○エイ
丸が船を出した後5時半過ぎにようやくうちも船を出した。

まっすぐに布土をめざし到着してすぐに網をやったけど一クラ目は青ガニ(タ
イワンガザミ)3つ、二クラ目はハゴ2枚のみ。三クラ目に突然コチが8本か
かりビックリした。小さい2本は放流。後を追ってきたシンコ○丸は一クラやっ
てすぐに三河へ走っていった。うちも4クラ目を終えてから三河へ行った。

矢作川河口前での一クラ目は小コチ1本のみ。続けて二クラやったけどどちら
もカラ。一色前へ下がってもカラ。そこから沖へ少し走ったところでようやく
カレイが7枚かかった。しかしその後もまたカラが続き12時15分頃止めて
帰ってきた。カンコの中が寂しい。港に戻ってみんなが水槽へ魚を揚げる様子
を見ていてもショ○トク丸を除いて皆漁が少ない。ヒ○エイ丸さえ短い時間で
水槽を離れる。

しかし札場の時間になったらヒ○エイ丸はたくさんのコチを売っていた。全部
で5万は下回らない水揚げだ。そこでようやく2つの事に気づいた。午後うち
が見たヒ○エイ丸の水槽揚げは実は2度めで、午前中に1度コチを水槽へ活か
しに戻っていたんだろう。2つ目は朝彼が無線で話していた事で、昨日も午後
尾張で漁をしたらしいのだけど何もおらんかったとのことだった。しかし何も
いないのに彼が今朝も同じ場所で網をやるはずがない。おそらく昨日もコチが
いたんだろう、それで今朝台風にかこつけて西浦へ行くのをやめ尾張にご出勤
だったんだ。まんまとしてやられた。

は〜、今月のうちの水揚げはヒ○エイ丸やショ○トク丸の3分の1だな。


○9月1日(水)  <切れた錨綱>

台風16号のおかげで4日ぶりの沖だ。ゴーヘー父の通院があるため早上がり
するので三河で漁をした。朝は遅くて楽だけど魚がいないから嫌になる。一色
沖で6クラやって小コチ2本、カレイ3枚、ギマ(カワハギ)数枚。終わりま
でそこでガマンしていればいいのにガマンしきれず、時間があまりないのに布
土へ向けて走った。

布土へ行くとヒ○エイ丸が網をやっていて驚いた。西浦へ行っているものだと
思っていたのに尾張にいたのか・・・布土にいるということは、きっと矢梨に
魚がいなかったんだな。うちもとりあえず網をやって揚げてみたけどカラだっ
た。時間切れで帰ってきたんだけど、網揚げがうちより遅かったヒ○エイ丸が
猛烈なスピードでうちの後を追っかけてきた。矢梨のツキ磯の下側で網を入れ
ていた。先を越されちゃいけないと走ってきたのだろう。

札場について船を岸に着けようと右旋回したら突然船が左に振れた。オモテに
いたゴーヘーは訳もわからずとにかく岸の綱を取って船に縛った。トモへ行く
とゴーヘー父が海中から綱を揚げていた。どうやらどこかの船の錨綱が台風の
波と風で切れてロープの端が漂っていたらしく、それをペラに巻いてしまった
ようだ。病院への時間を気にしつつ、ペラから綱をはずす。幸い巻いていたの
は少しだけですぐに取れた。他の船がペラに巻くといけないので錨を上げよう
としたけど船で引っ張っても上がらず、しかたなくロープを巻き取ってボンデ
ンをつけておいた。


○9月2日(木)  <ぐずぐず>

起きて階下へ行ったら丁度雨が降り出した。魚が獲れない時の雨降りは行く気
が起きないが、しぶしぶ船着き場へ行く。台風揚げ句の流れ物に当たるのが怖
いんでみんなまだ雨宿りしていた。夜随分風も吹いたらしくまだその風が残っ
ていて、それも出かけない理由になっていた。

明るくなると雨の中をヒ○エイ丸、ショ○トク丸が出て行った。しばらく後に
ミ○ホウ丸も出て行き後を追うようにコ○エイ丸が出た。ぐずぐずしててもう
8時近い。雨は降ったり止んだりでもうすぐ止みそう。ゴーヘー父が重い腰を
上げるとみんなも船を出した。

大谷の崖前に到着したのは9時ちょっと過ぎ。普段なら半分終わった頃。一ク
ラ目はカラで二クラ目に大ゴチが1本とカレイ3枚、ハゴ15枚ほどがかかっ
てきたので、どうにか油銭(今日の燃料代)になった。この後13時までやっ
たけどカレイ2枚、ハゴ7・8枚しか獲れなかった。今日もだめだった。


○9月3日(金)  <コチはどこ?>

朝海田で一クラ、矢梨で二クラやった。3連続カラだ。尾張は諦めて久しぶり
に梶島へ行く。水かぶりと長瀬で4クラやってコチが5本だった。その後は昼
までの5クラでコチ1本、カレイ2枚、本ガニ15ハイ。昼からは2クラやっ
て小コチ1本のみ。昨日のコチ1本、カレイ5枚よりましだけどやっていて張
り合いがない。

午後の潮でクロダイを狙うしか稼ぐ手だてがないが、こうカラばかりでは午後
の潮までガマンができそうにない。ん〜。


■エピローグ

少ないコチとカレイを狙った「逆バリ」も限界に近いです。こんなに獲れない
んでは今年の冬の生活が大変です。クロダイは潮時がポイントになるので時刻
がずれるとカラばかりの上漁の時間そのものが長くなって嫌ですが、もう少し
クロダイを狙って漁をやるしかないでしょう。


■次回予告

Vol.76 「札場」 2004年9月18日(土)発行予定


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