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【Uターン漁師のゴーヘー通信】Vol.81 ヤマテ
                          2004年11月27日発行
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■ヤマテ

当たり前のことですが、海の上は目印となる建物も看板も木もありません。
海水浴場でさえ岸から10数mも離れれば、自分の今居る位置が不確かになっ
てきます。岸に上がってみて初めて随分横に流されていたと気づいたりします。
オカの上では身の回りに常に目標物となるものがあって、知らず知らずのうち
にそれらとの距離を測り自分の位置を確認しているのでしょう。目標物が身近
に何もない海の上ではオカの上の感覚がうまく働かなくて自分の位置を見失っ
てしまうのかもしれません。

船に乗って岸から数百mも離れるとこの「自分の位置を見失う」感覚はもっと
顕著になります。岸と平行に100mくらい移動しても動いた感覚はまったく
ありません。100mなんて海の上ではほとんど誤差のようなものです。その
くせ自分の位置を見失っているので今度は同じ場所に戻ることができません。

誤差のような100mですが、しかし網をやる場合には大きな差になってきま
す。いえ、10mの違いも大きく、場所によっては5mや、わずか1mでも魚
のかかり具合に大きく影響します。

そんな身近な目標物が何もない海の上で同じ場所に戻る、あるいはわずか1m
の差を見分ける方法が「ヤマテ」なのです。

ヤマテは地方によっては「山建て(立て)」ともいうそうです。すなわち山の
重なり具合をみて自分の場所を知る方法です。その方法は手前にある目印にな
るわかりやすい形の山とその山の向こうにある山との重なり具合を1つ憶え、
別な方角にある同様な山の重なり具合を憶えると、この2つの「ヤマテ」によ
り今自分がいる位置が確定するというものです。自分がいる場所がわずかにず
れるとヤマテの山の重なり具合もずれるので、2つのヤマテが憶えた形と同じ
に見える場所に戻ればそれは元の場所となるわけです。

実際の山に重なり具合を憶えるのはかなりの記憶力が必要なので、できるだけ
わかりやすい「重なり」を探して憶えることになります。今だとオカの上に建
物や鉄塔、その他の建築物が多いので、それらを利用してヤマテを作ります(
探します)。今皆さんがいる部屋の中でも簡単に試せるので、わかりやすく方
角が違う目標物を2つ探してお試しください。

さてこのヤマテですが、場所を決めるために2つ必要なので通常2つで一組(
一つ)のヤマテと考えます。ヤマテは網をやる際には1クラで最低二組(始め
と終わり)、できれば4組(途中2カ所)必要なので、憶えなくてはいけない
ヤマテは最低でも4つ、できれば8つとなります。船は常に動いているのでわ
ずかな時間で別方向にある2つのヤマテ(一組のヤマテ)を憶えるのさえ大変
で、8つ全部となるとベテランカレ網漁師でもなかなかできません。また、オ
カから離れて遠く低い山しか見えない三河湾の一色沖のような場所では、そも
そもヤマテを決めて憶えるのが難しいです。

また山でなくて建物や地上の構造物をヤマテにしていた場合、たまにそれらが
取り壊されてしまったり前後や間に別な構造物ができてヤマテが見えなくなる
ことがあります。たとえば、防波堤の先端の灯台など恰好のヤマテになるので
すが、後ろの建物が取り壊されたり逆に増築されたり、防波堤自体が伸ばされ
て灯台が移動したりすることがあります。こういう場合「ヤマテが無しになっ
た」と呼び、新しいヤマテ作りに結構困ります。

ちなみに梶島そばにある宮崎漁港で今年防波堤が延長され白灯台が移動されま
した。梶島は海中にシマ(暗礁)が多いのでこの灯台の移動は漁に影響しまし
た。
移動前(2003/10/5撮影)


移動後(2004/11/24撮影)


オカのヤマテは山のヤマテと違って近いので見やすく、より「固い(確実な)
ヤマテ」には必須のものなのですが、人の活動の影響も強く受けるので良し悪
しです。

ところで、上にも書いた三河湾一色沖ではヤマテが遠くて憶えるのが難しい場
所です。海上にある航路標識(赤タンポ)を利用してヤマテを決めることも多
いのですが、航路標識の難点は潮の流れで位置が変わってしまうことです。1
mの誤差が漁に影響するのに、錨に繋がれた航路標識は潮の流れで数mくらい
場所を変えてしまいます。

そんな場所でもヤマテをきちんと憶えていていつもそこへちゃんと行ける漁師
は「ヤマテが固い」と呼ばれます。ヤマテに自信のない漁師はそういうヤマテ
の固い漁師のそばへ行って網をやることになります。この場合、ヤマテの固い
漁師を目印にするのでこれを「人ヤマテ」と呼びます。誰かがたくさん魚を掴
まえた日の翌日は決まってその人の周りにみんなが集まるので、この時も「人
ヤマテ」が活躍します。

もっとも単にそばに寄っていってテキトウに網をやっても魚は掴まりません。
そばに寄ってデンタン(魚群探知機)で魚のいそうな場所を探してから網をや
らなくてはいけません。

実は最近のデンタンにはGPS機能がついているので、一度魚が掴まればその
場所をデンタンに記憶させておけばオッケーなのです。ヤマテを見る必要もあ
りません。便利な世の中になったものです。


■今週のゴーヘー

○11月17日(水)  <採れる時に採るべし>

10時半にテンマを出して鳶ヶ崎へ行った。今年もまたムール貝を採るつもり
でいたので今日はその初出漁日。潮が悪くてまだ水深が深いけど今年は浅い場
所で採るつもりだったのでもう大丈夫と考えてのこと。

風でやや波がある中去年と同じ場所へ行くと波のせいで水中が濁って白っぽく
てよく見えない。少し浅い場所へ移動しても白っぽいままで「濁りがひどくて
できなぁ」と思いながら海底をよく見ていたら、白っぽく見える中に所々陰の
ように黒い部分が見えた。そこでようやく気がついた。白っぽく見えていたの
は濁りのせいばかりじゃなくて海底の岩肌が見えていたからだと。

去年は一面ムール貝があった場所なのに、今年は一面岩肌が露出してた。あま
りの激変に言葉もなし。コ○エイ丸の兄さんが言っていたことは本当だった。
たぶん今年の夏の暑さで死んだり台風の大波で流されたりしてしまったんだろ
う。これではムール採りがまったくできない。

こういうことがあるから採れる時にできるだけ採っておこうという気持ちにな
るんだよなぁ。


○11月18日(木)  <雨がパラパラ>

夕べ寝る時晴れていた空は朝起きてみれば全天曇り。おかげで冷え込みは少な
いけど日中は寒そうだ。

6時半に梶島の長瀬に着き一クラ目をやる。小コチが1本のみ。島西でカレイ
の新子が1枚しかかからずたまらずに田原町へ向かった。8時に到着して二ク
ラやってカレイ1枚、小コチ1本、ギマ4枚。ここも諦め江比間で一クラ、黒
部で一クラやってどちらもカラだったんでオクゴオリも諦め、もう一度梶島へ
戻った。

10時半に到着。雨がパラパラと降ってきてカッパを着るかどうか微妙なとこ
ろ。北西の風も吹いて寒いので、防寒も兼ねてカッパを着る。水かぶりで二ク
ラやるもカレイ2枚に小コチ1本。11時半に桟橋前に移動してようやくカレ
イ8枚を掴まえた。その西側で最後の一クラをやってカレイ1枚。やれやれ。

今日の水揚げは8千円あまり。寒い中雨に濡れてたったこれだけではやりきれ
ない。


○11月20日(土)  <諦めた>

午前中もう一度テンマを出して鳶ヶ崎のムール貝を見てきた。前回より水が澄
んで海底がよく見え、その分ムール貝が絶望的にないことがはっきりとわかっ
た。これだけきれいサッパリなくなっていると来年もまったく期待できない。
再来年、2年モノが採れるかどうか微妙なところ。それも2年間天候に問題が
なければという条件付きで。


○11月21日(日)  <カラは少ない>

久しぶりに小野浦で網をやった。6ラやってカラが一度だけだったけど小コチ
が1本か2本かかるだけ。西の風が吹き出してから内海前に下がって4クラやっ
た。カラが1クラあった他は小コチ1本、カレイ2枚、タコ1パイ。無線で風
が吹いてきた話が出始め、まだ11時だったけどみんなより一クラ早く帰って
きた。

今日の水揚げは1万円ちょっと。今時にしては、大漁だ(苦笑)。


○11月23日(火)  <カレイ、キターッ>

梶島にようやくカレイが上がってきた。朝からほぼカラが無く二クラ目は18
枚もかかった。特大ガレイが10枚、大ガレイが15・6枚弱、中ガレイがや
はり15・6枚。コチも中小合わせて10本。今日はホントの大漁だ。ようや
く産卵のためにカレイが浅瀬に上がってきたようだが、お腹の膨れ具合はまだ
半分程度。今年はまだ暖かいから半月程遅れている。

ただしせっかくのカレイ大漁だけど今のカレイは年間最安値を更新中なので特
大ガレイ10枚でも8千円程度。大ガレイ10枚にいたっては6千円を切った。
夏なら特大ガレイ10枚で軽く2万はするんだけどねぇ〜┐(´-`)┌。


○11月24日(水)  <さむ〜>

朝の気温が8度を下回るようになった。おまけに今朝のように風が吹いてると
一層寒い。網を揚げてても手が痺れる。

今日は昨日と打って変わってカレイが少なかった。コチも少なくてやっとの思
いの水揚げ1万だった。日中はまだそれほど寒くないけど、来週はもう12月
でカレ網も残り数日だもんなぁ。


○11月26日(金)  <ヒラメとボラ>

朝梶島で一クラやってから蒲郡まで走った。久しぶりだし、そろそろカレイが
上がってきていないかと期待してのこと。そして期待通りにカレイがよくかかっ
た。8クラやって大ガレイ20枚、中ガレイ20枚。おまけにヒラメまでかかっ
た。サイズは50cmくらいと大きめなんだけど養殖を放流したヒラメだった
ので札場での値段はそこそこで3千円ほど。

また、ボラもかかった。こちらは大ボラ(というとなんだか「ほら吹き」みた
いだが)で4〜5年生くらいだろう。揚げる時は網に絡まって身動きがとれずに
いたのでまるで蛸壺が引っかかってきたかのように重く、船に揚げて網からは
ずしてたらボラの重さで網糸が切れて穴が開きそこからボラが出てきた。2キ
ロ以上ありそうだ。

こんな大ボラだけど札場での値段は250円しかしなかった。「持ってくるな
」ってことだわな。う〜ん、うちで食べた方が良かったかなぁ。


■エピローグ

今年はムール貝がほぼ全滅です。テンマから海底を見た限りではどこにもムー
ル貝が見あたりません。岩の隙間とかに細々と生き長らえていてくれることを
願うばかりです。そこから子が放たれて周辺の岩場に着いて成長してまた子を
放って・・・やっぱり2〜3年はムール貝が採れそうにないです。残念。

カレイはまだ腹の膨らみが少なくて子を放つまでにあと半月程かかりそうです。
12月になれば札場もお休みになってしまうので、ムール貝が採れない以上ナ
マコを獲るしか収入の道がありません。ただ、そのナマコもこう暖かくてはま
だどこかに隠れたままかもしれません。

今年の冬は暖冬だそうですが、うちにとっては厳しい冬になりそうな予感。


■次回予告

Vol.82 「デンタン」 2004年12月11日(土)発行予定

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Copyright (C) 2001-2004 Gohe.


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