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【Uターン漁師のゴーヘー通信】Vol.84 風が来る
                           2005年1月8日発行
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■風が来る

前日の空模様や前日夜の天気予報から翌日風が吹いてくるかどうか、吹く場合
何時頃から吹いてくるかある程度予想します。当日朝も空模様や風の当たり具
合・吹き具合から前日吹いてくると予想した時刻を再確認・再調整しています。
その時刻は通常満潮や干潮の時刻に近いです。

ただし満潮や干潮はおよそ6時間おきに繰り返しているため、前後3時間もず
れたらどっちをきっかけと判断するか微妙なところなので(笑)、カレ網漁師
達は「潮の動き」の方をより重視します。すなわち「上げ潮(干潮すぎ)から
風が吹いてくる」とか「下げ潮(満潮すぎ)になったで吹いてきたな」とか、
よく言います。

風が吹いてくる時は凪から突然強い突風が吹いてくる、なんて扇風機のスイッ
チを入れたように風が吹いてくることはまずありません。凪いだ海面は船の引
き波などで常にゆっくりと上下にたわんでいます。滑らかな海面は晴れていれ
ばたわむごとに陽の光をキラキラと跳ね返し、曇っていれば重々しく上下しま
す。

この滑らかな海面のずっと向こう側にわずかに色が濃くなった場所が生じ、2
つ3つと生じたその濃い色が次第にこちらに近づいてきます。近づくにつれ濃
い色が実は海面の縞模様だとわかります。細かい切れ切れの横縞が到着する前
に風が顔に当たります。

最初の風はそよ風程度で夏なら涼しく気持ちが良い風です。冬だとそよ風程度
でもすっぽりと首まで被る毛糸の帽子が欠かせません。

風による海面の縞模様は「シマケ」(縞化?)と呼んでいます。風速2m程度
までは海面もシマケる程度です。あたり一面シマケに覆われていてもその程度
なら気にすることもありませんが、風速3mを越えたあたりから海面が少し波
立ってきます。風速4mぐらいで波頭が白くなり船も左右に揺れて「えらい吹
いてきたなぁ」となりますが、北西の風で風雲(Vol.63参照)が見えない限り
まだ帰るカレ網漁師はいません。

本格的に風が吹いてくる時は、風上の水平線近くの海の色が急に濃くなり黒っ
ぽくなります。

すでに十分風が吹いているのですがこれが見えると更に風が強くなるので、誰
かが無線で「風が来るなぁ」と言い始めます(みんな周りをよく見てます)。
風速6m以上の風が10分以内に今いる場所で吹き始め、それまで高くても0.
5m以下だった波は30分以内に高さ0.5〜1m程度になります。そうなる
前にすぐに網を揚げて帰ってきます。

カレ網の漁師が操業中無線で話したり、風休みで立ち話したりする時によく話
題になるのが、「おそげぇ(怖い)こと」というのがあります。何が一番おそ
げぇことかといえばそれはやはり「魚が獲れないこと」ですが、2番目はたい
てい「風が吹いてくること」に落ち着きます。風が吹いてくると魚がいても獲
ることができないですからね。

風休みでやることがないゆえの戯言(たわごと)のようですが、ゴーヘー通信
では風に関して過去6回(Vol.14東風Vol.33冬の風Vol.36春一番Vol.52
中西の風
Vol.63風雲, Vol.72午後はマゼ)書いています。今回7回めとなり
カレイとカレ網に関するものと同程度です。

風はカレ網漁にとって重要なファクターであると言えます。


■今週のゴーヘー

○12月27日(月)  <変>

コノワタを取る準備をしようナマコを活かしてある水槽に近づいたら、水槽の
蓋の紐が外れているのに気づいた。水槽の中のドウマンは底から少し離れて傾
いており、ナマコの腸の中に空気が入ってナマコが浮いている時こうなってる
ことが多い。でも、満水の水槽の底に沈んでいるドウマンの中のナマコにどう
して空気が入る?

もう一つの水槽の蓋を開けたら3つのカゴのうち1つのカゴのナマコがいくつ
も浮かんでいた。丁度コノワタを取りだした後のように。慌ててナマコを手に
取ると幸い腹は切られていなかった。こちらもナマコの腸の中に空気が入って
浮かんでいたようだ。でも、どうして水中にいるナマコの中に空気が入る?

コノワタを取り始めると妙にコノワタが「弱い」ことに気づいた。すぐに切れ
てしまう。たぶんナマコが弱っているためだ。活かし始めて今日で3日目のナ
マコもいるが、冬にその程度の日数でナマコが弱るなんて変。腸の中に空気が
入っていた点も含めて、変だ。


○12月28日(火)  <終わりだなぁ>

今年最後のナマコ引き。朝は寒くて手が痺れた。足のしもやけも一人前だ。

ナマコはもうさっぱり入らない。よくて7・8コ、だいたいが5つ以下。カラ
の時もある。浦の中はもうどこを引いてもナマコが入ってこない。今日で今年
最後だけどひょっとしたらこの冬最後になってしまうかも。

年末年始に冷え込んでナマコが泥の中から出てくることを期待しよう。


○12月29日(水)  <最後は雨>

午前中コノワタ取りをして仕事納め。あいにくの雨で今年一番寒かった。時間
と共に気温が下がり水も冷えていく感じだ。水槽の水が温かいことが唯一の救
い。終わってコンロで湧かしておいたお湯に手をつけて暖をとる。

12月中のナマコ漁は例年に比べて好調で、わりに良いお正月を迎えられそう
だ。年明け後の心配は今は考えず、今年一年無事に過ごせたことを感謝。


○1月3日(月)  <もうやってる>

まだ3が日だというのにもうナマコ引きをやり始めた人がいる。以前は松の内
(7日まで)はお休みにしてたのに今年は海苔屋さに負けじとやりはじめた。
海苔は休みなど関係なく生長するから人も休んでなどいられないけど、ナマコ
は獲ってしまったらそれで終いだよ。獲ったあとから伸びてくるわけじゃない
んだ。どうしてそれがわからないのかなぁ。

網屋がさっきやってきて「ええ日だがや、ナマコへ行かんのか!」と囃していっ
た。あんたみたいな人がおるもんで漁師もその気になっちゃうんだ、と言って
やりたい。

でも、他の人がやってるのに休んでるわけにはいかないよな。うちも明日から
ナマコ引きをやるしかないか。


○1月7日(金)  <まだお休み>

まだお休み中。うちだけがお休み中。
うちが休んでも他の人は休まずナマコを引いてるから、海は休みじゃない。ホ
ントはちゃんと海にもお休みをあげなくちゃいけなんだけどね。年寄りほど我
先にと引きに出てる。変な土地柄だ。


■エピローグ

先月26日に発生したスマトラ沖地震は観測史上4番目という規模の地震でし
た。発生した津波は場所によっては高さ3010mにも達したという大津波で、
インド洋をジェット機並の速度で駆け抜け沿岸各地に甚大な被害をもたらした
ことは、テレビによって映像で見ることとなりました。15万人という途方も
ない数の死者・行方不明者が発生し現地の悲惨な状況には目を覆うばかりです。

日本政府が5億ドルの義援金の拠出を決め、自治体・民間・ネットレベルでも
様々な団体・個人が義援金を行っています。ゴーヘーも微力ながらユニセフに
義援金を送りました。

ユニセフ
日本赤十字

ユニセフはネットでクレジットカードを使って緊急義援金を送ることができま
す。
日本赤十字は郵便振替か銀行振込になります。

海に関わる者としてこの地震と津波は他人事ではなく、津波に関する知識がも
う少し多くの人で共有できていれば、犠牲者の数を今よりも減らすことができ
たかもしれないと思わずにはいられません。

インド洋沿岸各国の間で海底地震とそれに伴う津波情報を即座に連絡・共有で
きるシステムの構築に、日本と太平洋沿岸各国が協力できることと思います。

PS.
前号は発送日を1日間違えてしまいました。申し訳ありません。


■次回予告

Vol.85 「防波柵」 2005年1月22日(土)発行予定

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