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【Uターン漁師のゴーヘー通信】Vol.96 潮回し
                           2005年6月25日発行
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■潮回し

日中の最高気温が25度を越える夏日や30度を越える真夏日が出るようにな
ると、時々カレイやコチが大漁にかかることがあります。一クラで4つガンコ
を抜いてしまうほど魚がかかったこともかつてはあるそうです。「4つガンコ
を抜く」とは「4つのカンコのヒを抜いて(栓を開けて)海水を入れ魚を活か
す」ことを意味します。ゴーヘーが漁師になって以後でも一クラで3つガンコ
を抜いたことが2度ありました。1度は梶島、もう1度は大野でした。

一クラで4つガンコを抜くまでにならなくても10数本のコチやカレイがかか
ることがあります。1カ所にこれだけの魚が集まっていることは産卵時期以外
ではあまりないことで、こういう状態の時を特に「潮回しで魚がかかった」と
表現しています。

「潮回し」とは「悪い」潮(海水)が流れてくることで、その流れに押される
ようにして魚が移動してきます。「潮回し」が発生するときは冒頭のように気
温が高い時でそういう日が急に続いた時が多いです。

「潮回し」によってかかった魚は概して弱く、コチなど網にかかったまま死ん
でいるものが目立ちます。生きていたものもカンコの中で死んでしまうものが
ありますし、丈夫なカレイでさえたまに死ぬことがあります。死ぬのを避ける
ためにカンコに入れる魚の数をできるだけ多くしないようにするため、カンコ
を抜く数も増えてしまうのです。このように魚が弱いのは海水温が高いためだ
と考えて、カンコのヒを止めて(栓をして)氷を入れて海水を冷やし、熱帯魚
の水槽に入れて使う「ブクブク」をカンコに入れて空気を送ったりしますが、
死んでしまうコチを減らすことはなかなかできません。

去年のことですが掲示板の常連さんでもある方から、県水産試験場が発表して
いる「伊勢・三河湾貧酸素情報」という資料を教えて頂きました。湾内に発生
する「貧酸素水」の分布状況を溶存酸素飽和度別に色分けして表示した資料で
した。要は海水中の酸素の量を数値化して分布状況を色分けした地図です。合
わせてゴーヘー通信に書かれている漁の様子と貧酸素情報を見比べて、貧酸素
状態が進行した状態とそうでない良い状態の境目付近で大漁になることが多い
ということも教えて頂きました。

さっそくその資料をネットで拝見して当時魚がよくかかっていた場所と地図の
色分けを見比べてかなり一致していることがわかりました。そして我々が「潮
回し」で呼んでいた「悪い潮」の正体もはっきりとわかりました。「悪い潮」
は貧酸素水塊でこれは海底に溜まる傾向があるので、海底に住むカレイやコチ
は貧酸素水塊を逃れて移動しているのだとわかりました。それが「潮回し」の
正体だったのです。

我々はコチが網で死んでいるのは網糸でエラを押さえてしまって呼吸ができな
いせいだと考えていました。春は海水温が低いからそういう状態でも生きてい
るけど6・7月は海水温が高いから死んでしまうと考えていました。水温が低
いと活性も下がるので一理あると思っていましたが、海水自体に酸素が少なく
て呼吸困難になっているとしたら網で死ぬのもカンコで死んでしまうのも、カ
ンコに入れる数を増やすと死んでしまうのもより納得がいきます。丈夫なカレ
イさえ死んでしまうのも酸素不足であれば道理です。魚が概して弱いのも海水
中の酸素が少ないのだから当たり前です。ヒラメなんてすぐに死んでしまいま
す。そしてカンコの海水を冷やすのは(必ずしもうまくはいかないが)魚の活
性を下げて必要酸素量を少なくするという経験から体得した戦術だったのです。

「潮回し」による大漁自体は随分前からあったようなので、貧酸素水塊の発生
自体近年の水質悪化以後の問題ではなく随分前からあったことなのでしょう。
比較的浅くたくさんの魚介類やプランクトンが生活している湾内では、貧酸素
水塊の発生自体は自然なことのように思います。ただその量が多く範囲が広がっ
て来ていることはやはり問題だと思います。

今年も貧酸素水塊は発生して日々成長しているようです。梅雨による大量の雨
は海の上層と下層を分離するため貧酸素水塊の成長を助長する傾向があるよう
ですが、梅雨の天候の荒れはその風により海水が撹拌されるので貧酸素状態の
解消に役立ちます。今年のように空梅雨で天候が安定すると貧酸素水状態が進
行する一方でしょう。

そのせいか今年は去年のように「境目」で魚がかからず、空港島周辺の酸素が
十分にある海域でよく魚がかかります。ただし次第にかかる量が少なくなって
きました。魚たちも逃げ場を失いつつあり困っているのかもしれません。


■今週のゴーヘー

引き続きブログにてご覧ください。

http://blog.livedoor.jp/gohe/



■エピローグ

今年の梅雨はホントに雨が降りません。今は梅雨の中休みかもしれませんがそ
れにしては梅雨の始まりの雨が少なくて今が中休みかどうかさえ疑わしいです。
梅雨前線は南の海上に停滞し今にも消滅しそうな気配。東海から西の各地では
ダムの貯水率が軒並み30%以下で中には数%というダムさえある状態。困っ
た関係者が干上がったダムのそばで雨乞いの「踊りや祈祷」を行っているのを
見て、自然の力の前には人の力など21世紀の現代となっても江戸時代以前と
同様あまりに無力だと思った次第です。


■次回予告

Vol.97 「活きと鮮度」 2005年7月9日(土)発行予定

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